恋より先に愛を知る




「かずき、って言うの?
そいつの名前」


ドキッとした。


どうして?

なんで知ってるの?


なんでその名前・・・。



「さっきさ。気のせいかもしんないけど、
呼んだような気がして」





―呼んだような気がして―







なんで・・・。


なんであんたに届くのよ。


どうしてあんたなんかに届いちゃうのよ。




彼には、どうしたって届かないのに。




本当に気付いてほしい人には、
いくら叫んだって届かないのに・・・。






【呼んでないよ】


「好きなやつなんだろ?そいつ」


【好きじゃない】


「嘘だね。そんなに大事に
ぶらさげてんじゃん。それ」


【好きじゃないわよ】



こんなのがあるからいけないんだ。


心のどこかで、これを大事に持っておけば
また会えるなんて、そんな期待を抱いてた。


私たちの道はまた、
交じり合うんだとばかり思ってた。


だけど違うじゃん。


もう、違うんだよ。


私に向けられていた彼の“好き”っていう気持ちは、
もうゼロになっちゃったんだよ。


もう、私は要らないんだよ。


わかってるじゃない。


あの声を聞けば、わかるじゃない。


あんな言葉を向けられれば、
もうとっくに気付いてるはずじゃない。








偶然か、必然か。


チェーンがちゃりっと音を立てて壊れた。


首もとからするりと崩れ落ちたリングが、
砂浜へと埋もれる。


その瞬間、また思い出した。


鮮明に、

色濃く、


思い出されていく。







『あかねでよかった』



『いつもありがとう』



『大好きだよ』





そんな優しい彼の声と





『勝手にやってればいいんじゃね?』



『巻き込まないでねー』


『無理でしょ』



『だから俺は言ったじゃん』





変わってしまった、冷たく突き放す声。