恋より先に愛を知る




視界いっぱいに広がる海の青。


海なんて、久しぶりに見た。


こんなにちゃんとした青を、
久しぶりに見た。


潮の匂いと、細波の音。


目を閉じると、
すうってモヤモヤが消えていく。


私の中に溜まった毒たちが、
一斉にいなくなっていく。


目を開けたら広がる、青い海。


水平線上には、
私の知らない世界が広がる。


ねえ。


この海を泳いで辿れば、
あの場所に着くのかな?



彼は、今どこにいるのかな・・・。


カイトは私をおぶったまま、
砂浜を駆け出した。


ふわりと顔に当たる風が冷たくて気持ちいい。


裸足になって駆けるカイトは幼いようで、
それでもその背中は大きかった。


高校生とは思えないくらい、
とてもしっかりしていた。






“カイト”






また、そっと名前を呼んでみる。


カイトは気付かないまま、
ただひたすら浜辺を走る。


私はその背中に手を伸ばして、
そのままトン、と指を突き立てた。






【かいと】






ふと、突然カイトは立ち止まって、
私を背中からそっとおろした。


向かい合わせになると、
カイトは私を見て言った。


「何?何か言いたいことあんの?」


ふるふると首を振ると、
カイトはなんだよって顔をして笑った。


「名前、呼んだじゃん」


【呼んでない】



今度は紙にそう書いてカイトに見せる。


そうするとカイトは真剣な目をしてこう続けた。