“早く降ろせ。ばぁあか!”
ポツリと、カイトの背中に向かってそう呟く。
だけどカイトには聞こえない。
あの頃とは違う。
だけどもし私の声が出ていたなら、
カイトはどんな反応を見せるのかな?
“カイト”
そっと呼びかけてみる。
カイトは振り向かない。
“カイト”
私の声が聞こえないこの背中が、
だんだんと彼の背中とリンクする。
“和輝”
ここにいるのはカイトなのに、
それでもその名を呼ばずにはいられなかった。
『和輝』
『ん?どうした?』
また呼んだら、彼は応えてくれるのかな?
“和輝”
お願い。返事をして。
私の声を、聞いて―
「何?」
はっと我に返ると、
カイトが私の方を振り向いて見つめていた。
びっくりしてカイトを見ると、
カイトは照れ臭そうに言った。
「あんまりじっと見んなよ。視線が痛い」
【見てないし】
「はあ?見てただろ、絶対。
首んとこ絶対痛かった!」
【だから見てないってば。しつこいなあ】
「・・・アンタ、あんまし生意気だと
海に突き落とすよ?」
その一言で、
顔を上げて目の前の景色を見た。


