恋より先に愛を知る




ふっと耳から外れるイヤホンと、
後ろに倒れこむ私の体。


塞がれていた聴覚が一気に解放されて、
聞こえてくるのは車の騒音。


クラクションを鳴らされているのは、私。





危なかった・・。


彼のことを考えるといつもこう。


戒めのように、冷たい声が何度も繰り返されると、
何も聞こえなくなる。


ぼうっとして、我を忘れてしまうの。


最近は思い出すことが少なくなっていたけれど、
ここまで酷いのは久しぶりだった。


心臓がバクバクと跳ねる。


もしもこのまま轢かれていたら私は・・・。


「危ねぇだろ!!何やってんだよ!」


私の頭上で聞こえてくる怒号は、
彼の冷たい声とは違った。


彼の方が穏やかなはずなのに、
今耳に入る怒号の方が、妙に温かい。


ゴツゴツした砂利の上に倒れこむように座る
私の後ろには、カイトがいた。


私の腰に手を回して、
その手は抱きかかえるように強い。



何?助けてくれたの?


ついてこないで、っていったのに、
助けてくれたの?



「ながら歩きは危ねぇんだからやめろよな。
 アンタ死にたいの?」



【助けてくれてありがとう。
 大丈夫だから離して】



震える手でそう紙に書いてカイトに見せる。


カイトはそれを見てさらに手に力を込めた。