仕事の途中で抜け出してきてしまった洋ちゃんを探しに、
同僚の人が駅前まで追いかけてきた。
洋ちゃんは放心状態のまま、
その人に連れられて仕事現場へと戻っていった。
駅に取り残された私は
はぁっとため息をついてボーっと立ち尽くす。
「おーい、大丈夫?あかねちゃん」
その声で我に返る。
そういえばこいつもいたんだった。
どうせなら洋ちゃんじゃなくて、
こいつがここから去れば良かったのに・・・。
【あのさ、あかねちゃんって呼ぶの
やめてくれない?馴れ馴れしいのよあんた】
「わかったわかった。
あ、俺の名前カイトね。覚えろよ」
【構うなって言ったわよね?あんたしつこい!】
「その、あんたって呼ぶのやめてくれたら考える」
【わかったわよ。くおん、くんね】
「そうじゃなくて、名前」
【かいとくん】
「くん、いらないよ」
【かいと】
端から見れば、こいつのただの独り言。
周りの人がおかしなものを見る目で
ちらちらと私達を見ては不思議そうな顔をする。
これ。
こういうのが私は嫌なの。
周りの人に私に関わる人が
変な目で見られることが私は嫌なの。
後から“ああ、こいつのせいだ”って
傷つけられるのが私は怖いのよ。
「ん。出来れば君の声で聞きたかったな」
【もう帰って】
「だってまだ電車来ないし」
ああ、そうだった。
本当に、この町は不便すぎる。
地元は暮らしやすくて大好きだけれど、
一度都会の便利さを知ってしまうとダメね。
時折嫌気がさしてしまう。
だって、もっとここが広い世界だったのなら、
こうして嫌な人に会う確率だって低いのに。
ここが狭いから、嫌でも会ってしまう。
こいつにも洋ちゃんにも、
関わりたくない人たちに偶然でも出会ってしまうものなの。
この町は、小さすぎる。
小さくて、小さくて、
ひっそりと隠れては暮らせないのよ。


