ボーイッシュな服装に身を包み、
帽子を深くかぶって鏡を見つめる。


イヤホンをつけて音楽を音量MAXで流すと、
ゆっくりと玄関の扉を開けた。


ガチャンと音を立てて閉まる扉が、
開ける時の重さを無くしたように軽く感じる。


空を見上げると雲ひとつない青空が広がっていた。


私、望月あかねの1日はこうして始まるの。






『勝手にやってれば?』


メールで送られた言葉なのに、
人の声で耳の中に聞こえてくる。


私の最愛の人の、冷たい声で。


もう4日前のことなのに、ついさっきのことみたい。


4日前、別れた彼氏に
ヨリを戻したくてお願いしたのがそもそもの失敗だった。


そんなかっこ悪いこと、前の私なら絶対にしなかった。


だけど私は、良くも悪くも変わってしまったの。


星沢和輝と過ごした10ヶ月間の間に。


傷が痛み出して、ずっと消えない。


そんな傷から目を背けたくて、私は歌を歌うの。


その歌は、誰にも聞こえやしないけど。


何もない、でこぼこな道を静かに歩く。


音楽に合わせるように自然と足並みが速くなっていった。






家の近くの、古船橋にかかる階段の
15段目に腰をおろしてしばらく目を閉じる。


私はこの場所が好き。


この場所は、私が素直になれる場所。


そうして、どことなく
私自身を奮い立たせてくれる場所。