……てか、コーラス部もジャズダンス部も男子がいるのに、モダンダンス部は女子だけなのね。

「モダンダンス部は、本気でジェンヌになるのを目指してる子達がほとんどだから。」
年輩の養護教諭にそう教えていただいて、びっくりした。

「そんな夢のようなクラブがあるんですか!」
つい両手を胸の前で組んだ乙女ポーズでそう叫んでしまった。

「あ、でもどうりで……モダンダンス部なのにみんな歌も上手かったですね。すごい!」
「そうよね~。本当に合格してる子がけっこう出てるから、頭が下がるわよね~。大瀬戸先生、タカラヅカ、お好きなら行ってみれば?あそこは指導者陣も充実してておもしろいわよ。」
指導者?

先生のお言葉に甘えて、放課後、第5体育練習場とも鏡の間とも呼ばれている体育館の片隅の部屋に行ってみた。
すると、そこにはバーレッスンに汗する少女達が!
フェアリー!!!

私はすっかり見惚れて、そのままお手伝いにいらしていた保護者のかたに勧誘されてしまった。
正式に副顧問になり、ほぼ毎日練習に顔を出すようになった。

……このモダンダンス部は、学校の部活としてはものすごく特殊だった。
週に1度、わざわざ受験スクールの先生が来てのレッスンまであることもびっくりだが、毎日交代で保護者のかたがお手伝いに来るなんて、すごすぎる。
みんなで生徒を見守り育ててる感がハンパない。
私もまた彼女達の応援が楽しくて楽しくて……毎日がとても充実していた。


夏休みには、神戸のダンスコンクールに出場するという名目で、歌劇団の本拠地の大劇場へ観劇に行った……部員だけでなく、保護者や支援してくださる教職員も入れて約100名でのツアーとなった。
ホテルは神戸市内だったので、夜にこっそりと出かけるつもりだったけれど、副顧問という立場上、身動きが取れなかった。
章(あきら)さんに、逢いたかったな……。

驚いたことに、玲子さんはわざわざコンクール会場まで逢いに来てくださった。
「なっちゃん!綺麗になったわねえ!」
玲子さんはそう言ってくれたけれど、私は淋しく首を横に振った。
「うまく化けるようになっただけですよ。」
私は離婚したことも、それでも夫と同居していることも、まだ誰にも……親にすら言ってなかった。

「そ~お?立派になったわよ。ちゃんと先生してるし、かっこいいわよ。」
玲子さんはそう言ってくれたけれど、声をひそめて続けた。

「……お仕事がうまくいってる分、夫婦間は冷えてる?感じ?」

以前と変わらず歯に衣着せない玲子さんに、つい苦笑してしまった。