カフェ・ブレイク

頼之くんはニッコリとうれしそうに笑った。

「真澄さんも。あけましておめでとうございます。よくお似合いです。」
既に30歳を越えているのに、いつまでも聖女のように透明感のある美しさだ。

「おめでとうございます。……そろそろもっと落ち着いた着物を着るべきなんでしょうけどね。タンスの肥やしにしとくの、何だかもったいなくて。頼之が早くかわいいお嫁ちゃんを連れてきてくれたら、惜しみなくあげるんだけど。」

嫁って!

おめめをくりくりさせて俺を見上げてる頼之くんに視線を移す。
「ずいぶんと気の早いお姑さんですね。」
苦笑しつつ、お水とおしぼりを出した。

「ご注文はどうされますか?」
「ブレンドー!」
頼之くんが元気よく手を挙げて言った。

「はい。ブレンドですね。……頼之くん、ケーキ食べますか?頂き物があるんですけど。」
パアアッと、頼之くんの顔が輝いた。

「了解!……真澄さんもご一緒でよろしいですか?」
道行を脱ぎながら真澄さんは笑顔でうなずいた。

「はい。ブレンド、お願いします。」
桜色の小紋は、美しいけれどはかなげで可憐で、真澄さんにとてもよく似合っていた。

やばい。
いつも通りの段取りなのに、2人が目の前にいるだけで、俺は何だか緊張していた。
うれしくてへらへらと緩みそうになる頬を無理やり引き締めた。

「どうぞ。」
到来物のケーキを2人に出す。
「先ほど私もいただきましたが、美味しかったですよ。」
……何だかんだともらうことが多いが、旨いものがある時に真澄さんと頼之くんが来てくれてよかった! 

「え……私にもですか?」
真澄さんが戸惑ってそう言った。

「はい。せっかくなので召し上がってください。」
「お母さんが食べんなら、俺が2つ食べる!」
頼之くんはそう言いながら、目の前のケーキを口に入れた。
「美味しい!」
かわいくてかわいくてしょうがないけど、もう、頭を撫でいい年齢じゃないよな。

「……それじゃ、私も。いただきます。」
真澄さんはそう言ってから、ケーキにフォークを入れた。

白い手。
ほっそりとした白いうなじ。

「ほんと……美味しい……」
うっとりと夢見るような瞳。

……ダメだ。
やっぱり俺、真澄さんが好きだ。


真澄さんは、年に数度程度しか純喫茶マチネに来てくれない。
……確実に小門が神戸にいない日を選んでいるようだ。
偶然でも逢いたくないのだろう。

それがわかっているから、俺はずっと店を休めない。

彼女がいつ来ても、笑顔で迎えたいから。