カフェ・ブレイク

「毎年毎年、正月、ゴールデンウイーク、お盆には旅行されてるんですよ。……なっちゃんもどこかに行かれないのですか?卒業旅行とか。」
まだ店内に何組か他のお客様が残ってるので、敬語を通す。

「行けないんです。切羽詰まってきちゃって。新居が決まらないんです。」
珍しくなっちゃんが、結婚に関する話をこぼした。

「結婚準備ですか。なるほど。では、旅行はハネムーンまでお預けですね。」
「……それもなしですね、たぶん。」
なっちゃんは、うつろな瞳でそう言った。

「……マリッジブルーですか?遠いとコミュニケーションも取りづらいでしょうね。お正月、会ってこられたほうがいいのではないですか?」
喫茶店のマスターとして、常連のお客様に一般論を言った。

「向こうが来るはずだったんですけど、私が行くことになりました。家探しとお正月に親戚にご挨拶ですって。めんどくさい。行きたくない~。」
カウンターに突っ伏して、なっちゃんはだだをこねていた。

……本当に結婚するんだなあ。
改めてそんな話を聞くと、改めて実感した。
「縁談も不動産もご縁だって言いますからねえ。いい物件が見つかるといいですね。」

なっちゃんの瞳が暗く濁った。
「……じゃあ、ご縁がなかったんですね……私たちは。」

私たち?
たち?
勝手にひと括りにするなよ。
多少の苛立ちを覚えて、俺はなっちゃんのつぶやきを無視した。

しばらくしてなっちゃんは帰って行った。


年が明けて、2日の午後。
待ちに待ったヒトが来てくれた。

「こんにちは。」
歳よりも大人びた頼之(よりゆき)くんが、ドアを開けて入ってきた。

「いらっしゃいませ。よく似合ってますね。かっこいいですよ。」
頼之くんは、大島紬のアンサンブルを着ていた。
俺にほめられて、頼之くんは奴(やっこ)さんのように両手を広げた。
「大島です!」

「これ、ちゃんとご挨拶なさい。」
すぐ後ろから、赤い道行(みちゆき)を着た真澄さんが入ってきて、頼之くんをたしなめた。

頼之くんは慌てて頭を下げた。
「あけまして、おめでとうございます。今年もよろしくお願いします。」
かわいいなあ、もう……。

「はい。あけましておめでとうございます。昨年中はありがとうございました。今年はもっといっぱい遊びにきてくださいね。」

営業トークじゃなくて、完全な本音だ。