カフェ・ブレイク

ダイニングテーブルには準備がすっかり整っていた。

とろとろの白いだしに、ほんのひとつまみの塩。
それだけで、極上のスープだ。

「オプションも。どうぞ。」
豊富な薬味にくわえて、溶き卵と摺った山芋。
鶏肉も歯ごたえがあって、一瞬、地鶏かと思った。

「このだしで、雑炊食いたい。」
ボソッと俺が言うと、玲子が反対した。

「えー!おうどんがいい!」
「ラーメンも合うと思うけど。」
珍しく小門も主張した。

3人から別々のリクエストをされて、なっちゃんはちょっと困っていた。
「……あの、おうどんもラーメンも買ってきてないんですけど……」
申し訳なさそうななっちゃんの言葉に、俺はニッコリ。
「雑炊決定♪」

結局、23時過ぎに小門ん家を辞去した。
終始ご機嫌さんだったなっちゃんが、車に乗った途端に静かになった。

いや、正確には、俺と2人きりになった途端、か。
意識してる。

「クリスマスや正月は彼氏……じゃない、婚約者と?お母さん達と?」
なっちゃんが強張った。

「……教習所があるので横浜には行きません。母の婚家にはお正月に。」
「ふぅん。」
じゃあ、婚約者が来るのかな。

「章(あきら)さんは、ずっとお店を開けてらっしゃるんですか?今年も、お休みなし?」
「うん?そのつもり。営業時間短縮はするかもだけど。」
「……どうして休まないんですか?」
それは素朴な疑問じゃなくて詰問だった。

「だってお客様が来てくださるのに開いてないと悪いし。正月休みは帰省のついでに寄ってくださるかたも多いし。」
建前を述べると、なっちゃんは皮肉気に半笑いを浮かべた。

「嘘くさい?」
前にもそんなこと言われたので、先にそう言ってみた。

なっちゃんはうなずいたけど、それ以上何も言わなかった。



翌日からも、いつも通りの日々を送った。
小門は仕事の合間に、なっちゃんは教習所の帰りに店に寄ってくれた。

何十年間も時が止まったまま……と、お客様が感じてくださるように、純喫茶マチネはクリスマスもお正月も、ツリーも鏡餅も置かない。
まあ、常連さんがケーキやおせちを差し入れてくれるので、何となくイベント気分にはなるのだが。

「じゃあ、よいお年を。土産、買ってくるよ。」
仕事納めの日の夕方、小門はそう言いおいて帰った。
夜のフライトでシンガポールへ飛ぶらしい。

「いいなあ。」

閉店時間ギリギリに来たなっちゃんは、ため息をついてうらやましがっていた。