カフェ・ブレイク

「朝食?スープ?」
「はい。もしかして食欲ないかもと思って、残り物を刻んでスープストックでのばしました。」
「旨そう。それでリゾットにしても、バケットを浸してチーズいれてもいいな。」
俺が思い付きでそう言うと、なっちゃんは至極真面目にうなずいた。

「わかりました。どっちがいいですか?」
……四角四面すぎて、からかいたくなってくるほど、クソマジメだな、なっちゃん。

「いや、俺はもう時間ないから、スープだけいただいていい?あいつらが起きて来たら食わしてやってよ。」
俺がそう言うと、なっちゃんは泣きそうな顔をした。
「独りで帰っちゃうんですか?」

やばい。
危険信号が俺の中で点滅しはじめた。

「……酒が残ってるから電車で帰る。なっちゃんはもう少しゆっくりしていけば?」
俺の言葉を加味して、なっちゃんは言った。
「わかりました。もうちょっと玲子さんとお話もしたいし、章さんが車を取りに来るのを待ってます。」
……店が終わったら、また車を取りに来いってか?

マジでやばい。
なっちゃんの切り返しが、俺のツボに入った。
……苛つくこともなく、むしろ楽しく感じた。
この子と付き合えば、俺はハマるかもしれない。
そんな風に思い始めていた。

まあ、既に結納を取り交わした結婚前のお嬢さんと付き合う、なーんて選択肢はないんだけど。
ほんと、残念だよ。



その日はさすがに体がだるかった。
「マスター、大丈夫か?しんどそうやで?」
と、常連のお客様にも指摘されるほど。

酒も残ってるかもしれないが、寝不足も大きそうだ。
今夜は早寝しなきゃ。

年末年始もなるべく店を開けてたい。
……いつ、あの人が来てくれるか、わからないから。



閉店後、重い足を引きずって電車で小門ん家へと向かった。
「おかえりなさ~い♪」
いかにも!な、白いひらひらエプロンをつけたなっちゃんが満面の笑みで飛び出してきた。

「……何ちゅう格好してんの。」
脱力してそう言うと、戸の陰から玲子が出てきた。
「ノリ悪いわねえ。せっかくの可愛い新妻コスプレなのに。」

……ため息しか出ない。

「なっちゃん。あと何ヶ月か後に、旦那さんにやったげたら喜んでくれると思うよ。……眠いから、帰るわ。乗ってくなら早くしてくれる?」
悲しい顔になって、なっちゃんはエプロンを取った。

「夕食ぐらい食べてったら?」
小門が苦笑してそう言った。
「なっちゃんがめちゃくちゃ美味そうな鶏鍋を作ってくれてるよ。鶏がらを何時間も煮込んで白濁してて。早く食いたいのに、俺たちも小門の来るのを待ってたんだから、食ってけよ。」

……思わず生唾を飲み込んだ。