カフェ・ブレイク

寝てるはずのなっちゃんが、ピクッと揺れた。

「……残念。」
もう一度そう言って、なっちゃんの頬にそっとキスしてから立ち上がり、小門のいるリビングに戻った。

押し殺した嗚咽がかすかに聞こえてきたけれど、気づかないふりをした。


「よく玲子が怒ってるけど、古城って、玲子にはイケズやん?……なっちゃんに対しても、たいがいイケズなんだな。」
小門にそう指摘されて、苦笑した。

「そうかも。……振り回されるというか、心を乱されるから苛つく。」
俺の言葉に、小門はキョトンとした。

「何?それ。……まあ、玲子はともかくとして……なっちゃんに?振り回されてるって?お前が?」
小門にそう確認されて、俺は改めてその意味に気づき、憮然とした。

……つまり、そういうことだろ。
たぶんなっちゃんの想いに応えてあげられる程度には、俺はなっちゃんのことが気に入ってる。
好きという言葉を使っても差し支えない程度には、好きなんだろう。

でも、諸事情と理性が歯止めをかけてる。
なのになっちゃんは、やすやすと俺のストッパーをはずしてしまいそうになるから……困るし、苛つく。

黙って飲んでると、小門はちょっとため息をついてから、言った。
「なあ?まだ間に合うで?……取り返しつかんことなんかないで?人生。」

お前が言うか?
いや、お前だから言うのかもしれないけど……俺は……

小門の顔を見て、頼之くんを思い出し、真澄さんのはかなげな笑顔を思い描いた。
俺の中ではいつも真澄さんは笑顔だが、小門と一緒に笑ってた時のようなキラキラした笑顔には遠く及ばない。
あの笑顔を彼女に取り戻してあげられるのは……お前だけなんだ。

「届かないんだ。どうしても。俺じゃダメってわかってるから。何を言ってもどれだけ想っても、伝わらない。」
俺のベクトルがどこへ向いてるか、やはり小門は理解しているのだろう。

「……すまない。」
とだけ言って、視線を落とした。



結局、明け方まで飲んでしまった。
数時間眠って……イイ香りで目覚めた。

布団を片付けて、ダイニングキッチンを覗く。
なっちゃんが鼻歌まじりで料理していた。

「おはよ。何作ってんの?」
「ああぁっ!!」

なっちゃんが驚いて挙げた声があまりにも大きくて、俺もびっくりした。
「おは……ぃます。」

今度は聞き取れないほど小さな声。
極端すぎて、笑えた。

夕べのアレが原因なんだろうけど。