カフェ・ブレイク

「どうぞ。」
「うまそー。いただきます!」
早速フォークで小さく掬い、口へと運ぶ。

黒いスポンジは、深いカカオの味と香りいっぱい。
中のクリームは動物性の濃いよつ葉の生クリームと……コーヒーか!
濃いコーヒーをシロップ仕立てにして、生地に染み込むように塗りたくってるのだろう。
チョコの香りを邪魔しない、心地よい苦味はいいアクセントになっていた。
細かく砕いたナッツ類もいい仕事をしている。

「……売れるよ、これ。」
小門がしみじみと言った。

「ほんと。でも、子供にはもったいない。赤ワインにぴったり!」
玲子は、ケーキとワインを交互に口に入れて感動していた。

俺はと言えば、予想以上の旨さに言葉が出ない。 
幸せに浸れる美味なのに、胸が痛い。

なっちゃんがブッシュドノエルに仕込んだのは、毒じゃなくて……媚薬?

……参ったな。


「イイ子じゃないの、なっちゃん。……章(あきら)、馬鹿ねえ。8年も想われてるのに、みすみす他の男に渡すなんて。」

なっちゃんがトイレに立った時に、既に酔っ払ってご機嫌さんの玲子(れいこ)が小声でそう言った。

俺は黙って泡盛の古酒をあおった。
まるでチョコのような香りのするこの酒は、当然チョコレートケーキとの相性もばっちり合う。
旨いな……。

しみじみと目を閉じて味わってると、なっちゃんが戻ってきた。
「飲む?」
既にワイン3本をみんなで飲み干していたので、なっちゃんにも勧めた。

「やめときます。これ以上飲むと帰れなくなりそう。」
「あら!明日お休みでしょ?ゆっくり泊まっていきなさいな。……明日も仕事がある章も泊まるのに、無理に帰る必要ないない。」

玲子はそう言って、なっちゃんにショットグラスを差し出した。
なっちゃんはちょっと逡巡したけど、玲子にニッコリとほほ笑まれて、釣られたように口元を緩めてうなずいた。

「すみません。じゃあ、お世話になります。いただきます。」
小門が泡盛をなっちゃんに注いでやった。
なっちゃんは鼻を近づけて香りを嗅いで、首を傾げた。

「これ、チョコの香り?……私が以前飲んだのは柑橘系の香りでしたけど……」
「ああ。バリエーションあるから。ワインならともかく、蒸留酒でいろんな香りが楽しめるのも、おもしろいよね。」
うちからカラカラ(泡盛用酒器)も持ってくればよかったな。

「うん。おいしい。これ、癖になりそう。」

なっちゃんは、ゆっくりと舐めるように味わった。