カフェ・ブレイク

新しい車のほうが燃費も安全性も快適性も高いから、両親にはしつこく乗り換えを勧められている。

でも、俺はこれが好きなのだ。
頑固だが、部品がなくなるまで乗り続けるつもりだ。

「ちゃんと、新しい車を買ってもらったほうがいいよ?」

なっちゃんは返事をためらった。
「新しい小型のマニュアル車を探します。」

……この子も頑固だよな、まったく。

「……じゃあ、トヨタ86(はちろく)は?値段も大きさも手頃でかわいいんじゃない?」
俺がそう言うと、なっちゃんは手帳を取り出してメモした。

……交差点の右折レーンでエンストして慌ててるなっちゃんが目に浮かんで、こっそり笑った。

小門別宅マンションのビジター用駐車場インターホンを押すと、管理の人がすっ飛んできた。
「ああ、やっぱり!初代カマロですよね?すごいな……。」
どうやら車好きらしい。

「日本で10台程しか入ってないと聞いてます。コレクションじゃなくてまさか走ってるなんて。」
「……いや、もっとあると思いますよ?個人的にも持ち込んでるでしょうし。」

まあ、まだ現役で走らせてる人が他にいるのかどうかは知らないけど。
やたら興奮してるので、鍵を渡した。
「マニュアル車ですけど車庫入れできますか?」

「いいんですか!?ありがとうございます!」
「いやまあ、こちらこそ、よろしくお願いします。」
ちょっと笑って車を託した。

「……なるほど、そういう車なんですね。」
エレベーターに乗ってから、なっちゃんがそう言った。

「今では、そういうことになってるねえ。」
本当は発売時から人気だったらしいけど、別に俺の自慢じゃないので、さらりと流した。

「章さんのおじいさま、粋なかただったんですね。お店も車も、普通じゃないですよね。」
「そうだね。それは間違いないね。」
じーさまは戦前アメリカに留学してたから、当時の日本人としちゃ目が肥えてたのだろう。

「でもじーさまのえらいのはね、時代が変化して、より新しいチープなものが氾濫しても、意固地に古き良きアメリカを捨てなかったことだと思うよ。実際、親父はじーさまの店も車も『古臭い』と処分したがってるし。……させねーけど。」

なっちゃんは少し笑った。
「おもしろいですね。同じモノを『古臭い』と思う人もいれば、『かっこいい』と思う人もいるし。」

「……他人がどう思おうと関係ないよ。いちいち反応を気にするの、アホらしいやろ?俺が愛して大事にしてりゃそれでいーの。ほら、ここ。」
エレベーターを降りて、角を曲がった玄関を指差した。

「……うらやましい。」

なっちゃんの言葉に首を傾げながら、チャイムを押した。