カフェ・ブレイク

しばらくしてから、なっちゃんは能面のような顔で帰って行った。
「ブッシュドノエル、楽しみにしててください。」
……毒でも盛られそうで、ちょっと怖かった。




22日の夜、店を閉めるとすぐに帰宅してシャワーを浴びた。
ワインセラーからボルドーの五大シャトーのセカンドを3本、いずれも当たり年で選んだ。
……やっぱり、泡盛も持って行こう。


エレベーターで少し降りて、なっちゃんの部屋へ。
ドアが開くと、色んな美味そうな香りが漂ってきた。

なっちゃんは薄化粧を施し、白いアンゴラのワンピースに辛子色のカーディガンを羽織っていた。
綺麗なお嬢さんだよな、やっぱり。

「お待たせ。行こうか?」
「はい!」

ぴょんぴょんと飛び跳ねるように、俺の後をついてくる。
まるでウサギだな。

……この子とデートしたら、ずっとこんな風に……勝手に顔が笑うのだろうか。
いやいやいや、なっちゃんはもうすぐ結婚するんだから!
不埒な想いを慌てて打ち消して、黙々と歩いた。


地下駐車場まで降りて、車に乗り込む。
「……章(あきら)さんの車……意外でした。」

なっちゃんの言わんとしてることはよくわかる。 
「よく言われるよ。似合ってないらしいね。」

「似合う似合わない以前に……世代が違うように思うのですが……」
「そうだね。でも動くのに捨てるのもったいないし。この車も、あの店も、じーさまの道楽を引き継いだだけだよ。」
「おじいさま……」
絶句するなっちゃんから目を離し、車を出した。

1969年、じーさまがアメリカから輸入したのは、シボレーカマロ初代。
ブラウンに近い黒の車体は、でかくて、派手で、コレクター垂涎の的らしい。
もっとも、俺にとっては燃費の悪い、左ハンドルの不便な車でしかないが。

「……思ったよりうるさくないんですね。運転、忙しそうですけど。」
走り出してしばらくしてから、なっちゃんが言った。

「メンテナンスしてるから。車検も多いし。忙しいのは、マニュアル車だからしょうがないんじゃない?ま、俺はずっとこの車やから慣れてるけど。」

しばらくジーッと見ていたなっちゃんが突然宣言した。
「決めた!私もマニュアル車にする!オススメの車ありますか?」

……オススメ、ねえ。

「あんまりよく知らないんだ、ごめん。こんなマニアックなの乗ってるから、めちゃ車に詳しいと勘違いされよーけど、単に家にこれがあっただけやから。」

半分嘘だ。