カフェ・ブレイク

「お母さんの嫁ぎ先、居づらいの?」

結婚が決まってるお嬢さんなので、俺に未練がある、とは思わないようにしている……どんなに視線が俺を追っていても。

「イイヒトですけどね。嫁入り道具も惜しみなく揃えてくださるし。手切れ金のつもりなんでしょうね。」
……まあ、ヘタに再婚相手の娘、それも成人した娘と仲良くしたがられても困るけど……そんなもんなのかな。

「それより明後日ですけど、何かお料理を作って行こうとかと思うんですけど……どんなものがいいと思いますか?」
なっちゃんの手料理か!

「いつも酒、それも蒸留酒系ばっかりで、つまみしかなかったから、何でもうれしいわ。」
「……みなさん、お強いんですか?」
「ん~。俺と小門は。玲子は普通。だから途中で寝とるわ。」

なっちゃんは、うーんと少し考えてから、俺に確認した。
「もしかして今回も蒸留酒なんですか?せっかくクリスマス前なのに?シャンパンとかワインにしません?……そのほうがお料理も合わせやすいし。」

「一応、泡盛の古酒を持っていくつもりだったけど……。じゃあ、ワインにしようか。一応命日だからシャンパンは微妙。」

なっちゃんは、ハッとしたように口元を手をやった。
「はしゃいで、すっかり忘れるところでした。むしろ何か御仏前にお供えすべきなんですよね。」

……はしゃいでたんだ……。

「あまり気にしなくていいとは思うけどね。騒ぎたいって俺達を呼ぶぐらいなんだから。あ~、あれ食べたいな。ブッシュドノエル。」

なっちゃんは怪訝な顔をした。
「ケーキは買ったほうが美味しくないですか?」

俺は顔をしかめて見せた。
「いーや。クリスマスはケーキ屋のかき入れ時だから、ほっとんどの店が冷凍した生地を使うだろ?たいしたことないよ。……ほら、なっちゃん、前にリンゴを丸ごと入れたチョコケーキを焼いてくれたろ?あれ、めちゃくちゃ旨かったから。絶対なっちゃんが作ってくれたほうが旨いって!」

なっちゃんの瞳から、ほろりと涙がこぼれ落ちた。
……しまった。
無言で新しいおしぼりを差し出した。

なっちゃんは、慌てて涙を払った。
「ごめんなさい。他のお客様が来られたら、マスターにご迷惑をおかけしますね。」
以前そんなこと言ったっけ、と苦笑で応えた。

「そうでしたか。お口に合いましたか。……すごくうれしいです。」
そうつぶやくなっちゃんの瞳にまた新たな涙がにじんだ。

……ダメだ。
かわいすぎる。
俺は天を仰いでため息をついた。

「そんな顔、旦那さん以外に見せんとき。」

一瞬でなっちゃんの顔が、こわばった。

黙って唇を噛んでいたようだが、気まずいので、俺はなっちゃんのそばから離れた。