カフェ・ブレイク

なっちゃんは、ポカーンと口と目を開いた。
「……どうしてそんな女性がいながら他の女性と結婚なさったんですか?私、てっきり……ご結婚後にお心変わりなさったのかと……。」

俺はうなずいた。
まあ、普通はそうだよな。
「心変わりはあったんですけどね。」
そこまで言った時、テーブル席のお客様が席を立った。

「ありがとうございました!」


時間は正午。
ランチを出さない純喫茶マチネ的には、ひとときの閑散時となる。
「……お腹すいてない?」
店内のお客様がなっちゃんだけになったので、俺は言葉を崩した。

「はい。朝食が遅かったので。」
「……そう?じゃ、俺だけ食わせてもらうけど。」

コンビニのおにぎりを食べながら、さっきの小門の話の続きをした。
何も知らないなっちゃんが玲子の逆鱗に触れたら大変だと思って。
なっちゃんは神妙に聞いていた。

「かわいそう……玲子さん……」
最終的に、なっちゃんはそう言って涙ぐんでいた。

……あれ?

俺的には、真澄さんがかわいそうだと思ってるので、なっちゃんの反応は意外だった。
「玲子は小門とずっと一緒にいよるのに?」
「そばにいても、心が寄り添ってないなら、よけいに惨めで淋しいんじゃないですか?」

そういうもん?
だったら、真澄さんと頼之くんに小門を返してやれよ。

イラッとして、俺は
「めんどくさー。」
と、こぼした。

すると、なっちゃんは小さく舌打ちした……ような気がした。



翌日からも、なっちゃんは大学と千里とマンションと、ついでに純喫茶マチネとを行ったり来たりしていたようだ。
寝不足の顔で店に現れることも多く、カウンターで居眠りすることもあった。
寝かせててあげたいけど、風邪引いてもかわいそうだし……。

他にお客様のいない時にはブランケットを掛けてそっとしておいた。
……無防備に寝てるなっちゃんはかわいくて……
仕事をしながらも、その寝顔に目をやると、何となく癒されて顔がほころんだ。



卒業研究を提出したその足で、なっちゃんは教習所に申し込み手続きをしてきた。
「……車に乗りたいの?嫁ぎ先は、車が必要なところ?」

閉店前にやってきて、タレーランと名付けたスペシャルコーヒーを飲みたがったなっちゃんに、卒研提出の慰労でご馳走する。

「ええ。横浜市って都会のイメージなので、最初は驚きました。完全に農村地帯。地下鉄は一応通ってるけど、買い物も不便みたいだから。」
「へえ?まあでも神戸も北は山だもんな。……でも、もう大学ほとんど行かなくていいんだろ?千里で取ればいいのに。」

なっちゃんは、俺をキッと睨んだ。

……睨まれても、苦笑しか出ないよ。