今年も冬がやってきた。
「伊織(いおり)の命日に、うちに来ないか?……玲子が、湿っぽい法要を嫌ってね。気鬱になるらしい。」
お昼前、店に運転手付きの車を横付けした小門は、コーヒーを飲みに来たというより俺を誘いに来たらしい。
「……わかりました。何かまたみつくろって持参しますね。」
店内のテーブル席には幾人かのお客様が、カウンターの隅にはなっちゃんがいる。
他のお客様がいらっしゃるので、いつも通りマスターとして敬語でそう返事をした。
今度は泡盛の古酒でも持って行こうかな。
ぼんやりそう考えている俺をよそに、小門は少し離れた場所でレポートを書いていたなっちゃんにも声をかけた。
「よろしければ、あなたもいかがですか?ホームパーティーというにはあまりにもお粗末な、ただの家飲みですが。……内妻(ないさい)が賑やかに過ごしたいと言ってまして。」
はあ!?
俺もびっくりしたけれど、なっちゃんも驚いて声を挙げた。
「え?ええっ!?私ですか!?」
なっちゃんは、俺を見た。
肩をすくめて見せる。
……玲子のやつ……何を考えてるんだ。
「ええ。ぜひ。」
小門にしては珍しくニッコリと、よそ行きの笑顔で誘った。
なっちゃんは、何度も小門と俺の顔を見比べてから、うなずいた。
「ありがとうございます。うれしいです。……いつですか?」
「12月の22日ですね。」
……クリスマス直前だったな、そういえば。
「あ、よかった。……実は20日が卒業研究の締め切りなんです。今、切羽詰まってて。22日なら締め切りも終わってますし、安心して飲めます。」
ホッとしたらしく、なっちゃんは笑顔になった。
小門が帰ってから、なっちゃんに言った。
「おっさんおばさんの飲み会に、無理に付き合う必要ありませんよ?」
なっちゃんは、顔を歪めるような表情をした。
「私、お邪魔ですか?」
……さっきまでのなっちゃんは昔のようにかわいかったのに……
「それ、被害妄想ですよ。」
俺はそう言いながら、小門のカップを片付ける。
「幸せな結婚が決まった未来の希望あふれるお嬢さんにとって、あまりいい面子(めんつ)じゃないですからね。」
俺がそう言うと、なっちゃんは少し黙って首をかしげて思案してから聞いてきた。
「あの……直接うかがったわけじゃなく、いつも傍で聞いてるだけなのでよくわかってないんですけど……さっきも『内妻』って……」
俺はなっちゃんに近づいて、小声で話した。
「ええ。今回招待してきたのは小門の本妻じゃありません、戸籍上は。でも、中学の頃から小門と付き合ってる糟糠の妻です。私の幼なじみなんですけどね。」
「伊織(いおり)の命日に、うちに来ないか?……玲子が、湿っぽい法要を嫌ってね。気鬱になるらしい。」
お昼前、店に運転手付きの車を横付けした小門は、コーヒーを飲みに来たというより俺を誘いに来たらしい。
「……わかりました。何かまたみつくろって持参しますね。」
店内のテーブル席には幾人かのお客様が、カウンターの隅にはなっちゃんがいる。
他のお客様がいらっしゃるので、いつも通りマスターとして敬語でそう返事をした。
今度は泡盛の古酒でも持って行こうかな。
ぼんやりそう考えている俺をよそに、小門は少し離れた場所でレポートを書いていたなっちゃんにも声をかけた。
「よろしければ、あなたもいかがですか?ホームパーティーというにはあまりにもお粗末な、ただの家飲みですが。……内妻(ないさい)が賑やかに過ごしたいと言ってまして。」
はあ!?
俺もびっくりしたけれど、なっちゃんも驚いて声を挙げた。
「え?ええっ!?私ですか!?」
なっちゃんは、俺を見た。
肩をすくめて見せる。
……玲子のやつ……何を考えてるんだ。
「ええ。ぜひ。」
小門にしては珍しくニッコリと、よそ行きの笑顔で誘った。
なっちゃんは、何度も小門と俺の顔を見比べてから、うなずいた。
「ありがとうございます。うれしいです。……いつですか?」
「12月の22日ですね。」
……クリスマス直前だったな、そういえば。
「あ、よかった。……実は20日が卒業研究の締め切りなんです。今、切羽詰まってて。22日なら締め切りも終わってますし、安心して飲めます。」
ホッとしたらしく、なっちゃんは笑顔になった。
小門が帰ってから、なっちゃんに言った。
「おっさんおばさんの飲み会に、無理に付き合う必要ありませんよ?」
なっちゃんは、顔を歪めるような表情をした。
「私、お邪魔ですか?」
……さっきまでのなっちゃんは昔のようにかわいかったのに……
「それ、被害妄想ですよ。」
俺はそう言いながら、小門のカップを片付ける。
「幸せな結婚が決まった未来の希望あふれるお嬢さんにとって、あまりいい面子(めんつ)じゃないですからね。」
俺がそう言うと、なっちゃんは少し黙って首をかしげて思案してから聞いてきた。
「あの……直接うかがったわけじゃなく、いつも傍で聞いてるだけなのでよくわかってないんですけど……さっきも『内妻』って……」
俺はなっちゃんに近づいて、小声で話した。
「ええ。今回招待してきたのは小門の本妻じゃありません、戸籍上は。でも、中学の頃から小門と付き合ってる糟糠の妻です。私の幼なじみなんですけどね。」



