カフェ・ブレイク

「ま、味は原酒でいってほしいけど、身体にはきっついからな。胃で薄めといて。はい、乾杯!……玲子、一気に飲まんときーって!」

本当に杯を飲み干した玲子に、慌ててチェイサーの水を押し付けた。
「……喉と胃が熱い……」
玲子はそう言って、笑いだした。
天真爛漫な笑顔に、小門と俺も笑顔になる。

……とりあえず、玲子(こいつ)が笑ってるならいいか……伊織くんの亡くなった時の悲痛な玲子を見てるだけに、そんな風に想った。

ああ、そうか。
小門もそんな風に自分を納得させているのかもしれない。

真澄さんと頼之くんのことはもちろん心配だろうが、今の小門が守るべき相手はやっぱりこの玲子なんだよな。
この夜、3人で過ごしてみて、改めてそう痛感した。

でも、じゃあ、真澄さんは……いつまでも1人なのだろうか。


「ねえねえ。章(あきら)は?イイヒトいないの?おばさま達、心配されてない?」
酔いで目がとろんとしている玲子がそう聞いてきた。

「心配ねえ……してると思うけど。でもまあ、別に気楽な人らやから。」
敢えて「イイヒト」は無視した。

「章、昔っからもてたけど、女運ないって言うか~、まともな恋愛してないもんね。心配~。」
そう言って、玲子がケタケタと笑った。

「こぉの!酔っ払いが!」
再び水を押し付けて、飲ませた。

「……まあでも、確かに、古城は無駄にもてるよな。……女嫌いでも、男が好きなわけでもないのに、何で本気で口説(くど)かんの?」
小門は玲子に便乗してそう聞いてきた。

ドキッとした。
……小門は誰のことを言ってるんだ?
俺が、真澄さんを想ってることを知ってて、けしかけてるのか?
真澄さんを口説け、と言うのか?

不用意に返事できなくて、俺は静かに杯に口を付けた。
旨い。
芋の香りと雑味がたまらなく甘さを演出している。
屋久島の自然の恵みに感謝したくなる逸品だ。

「……壊したくない、のかな。」
至極曖昧だが、そう言った。

俺という人間は、現状維持が好きというか……自分も、相手も、変わりたくない、変えたくないのかもしれない。
手に入れるよりも、失うことを恐れている気がする。

「章らしいー。てか、ちっちゃい頃から、親の愛情も、おもちゃも、お菓子も、教育も、湯水のように与えられてきた、恵まれた苦労知らずなぼんぼんらしいわ。」
玲子にそう言われて、ちょっとムッとしたけれど……その通りかもしれない。
「うちら庶民とは違うわ!欲しいもんは欲しい!好きなもんは好き!憎たらしいもんは憎たらしいねん!」

玲子はそう言って、杯を突き出した。

小門が、やれやれと肩をすくめて、注いでやった。