カフェ・ブレイク

中学の時に入部したサッカー部で、俺は小門と意気投合し親友付き合いが始まった。
クラブを引退して受験勉強に専念し始めた頃、いきなり玲子が小門に告った。

それまで玲子を認識すらしてなかった小門だが、根が真面目で優しい奴なので……前向きに玲子を受け入れて、なし崩し的に付き合いが始まっていた。

最初のうち、小門は共通の友人として図書館やちょっとしたデートにも俺も誘おうとしたようだ。
それが玲子は気に入らなかったんだな。
2人の付き合いが深くなる頃には、玲子は俺を敵視していたような気がする。

……馬鹿馬鹿しいので、俺も2人とは距離を置いた。
部活では、変わらずに小門とじゃれ合ってたけど。


一旦うちに寄ってシャワーを浴びてから、秘蔵の芋焼酎「三岳」原酒39度を抱えて小門の別宅へ向かった。
電車で行こうかと思ったけれど、伊織くんが亡くなった時のことを思い出してしまいそうな気がしたので、愛車を出した。
……お泊まり確定だな、これで。


小門の別宅は、数年ごとに変わっていた。
……近くに新しいマンションができる度に玲子(れいこ)が引っ越したがったようだ。
というわけで、現在のマンションは今までの駅から少し離れたところに去年建ったマンションだ。
数年前に新設された駅に近く、周辺にやたら桜を植樹しているらしい。

「さすがに綺麗だな。」
外観、エントランス、エレベーターを経て、小門の部屋のドアを開けると、挨拶よりも先にそんな言葉が出た。

「いらっしゃい。……次のマンション建設の時の参考になるか?」
小門にそう聞かれて、肩をすくめた。
「うちのは全部デザイナーと建築家任せだから。」

「餅は餅屋、って、よくおじさまとおばさまが仰ってたわね。お二人とも、お元気?」
小門の後ろから玲子が顔を出した。
穏やかな笑顔に、ホッとした。

「ああ。相変わらず夫婦で遊び回ってるわ。玲子も、元気そうやな。これ、一緒に飲もうと思って持ってきた。」
小門は大事そうに受け取り、ラベルを玲子に見せた。

……確かにこの2人の間の空気は、長年連れ添った夫婦のようではあるが……戸籍上の本当の妻である真澄さんが俺の脳裏から離れない。
……真澄さんを想うと、複雑な気持ちになった。

早速、持参した「三岳」を開封。
「水で割るなよ。」
しつこくそう言いながら、杯を満たす。

「じゃあ、何で、水を持ってくんのよ?」
玲子はチェイサーを知らないらしい。

小門が説明していたけれど、納得いかないらしく、首を捻っていた。