カフェ・ブレイク

古い店だ。
先代からのお客さまも、もちろんいらっしゃる。

でも、祖父が店を続ける原動力になっていた女性のお孫さんがこうして訪ねてくださるとは思わなかった。

……じーさま……この店、やっぱり港だな。
胸が熱くなった。


遠慮がちに、ドアが開いた。
「やあ、マスター。いいかい?取り込み中?」
やって来たのは、小門だった。

……昼前に真澄さんと仲睦まじく歩いていて、今までどこで何してたんだか。
文句か嫌味を言ってやろうかと思ったけれど……やめた。

小門は、にやけてこそいなかったけれど、とても穏やかで幸せそうに見えた。
約20年間、小門のこんな顔は見なかった気がする。
たぶん真澄さんも……20年前の心からの笑顔を取り戻したのだろう。

2人ともオトナだ。
今さら事を荒立てるとも思えない。
……万が一玲子が捨てられるなら……そうだな、うちのマンションに来ればいい。
なっちゃんも母さんもいることだし、玲子の気も紛れるだろう。


コーヒー・カンタータに聞き惚れているハーフくんと、頼之くんのスクラップブックを静かに眺める小門。
ケトルのお湯が沸き、挽きたてのコーヒー豆が芳しい薫りを放つ。
賑やかなのもいいが、こんな風に穏やかな午後も、とても愛しい。

この古い店をどんなに普遍的に保とうとしても、時間帯や、来てくださるお客さま次第でいろんな側面を持つ。
……それはそれで、いいよな。
ココは、港だから。
どんなお客さまも、温かくお迎えして、くつろいでいただきたい。


「マスター。さっきね、母校の文化祭を覗いて来たよ。」
小門が、静かな声でそう話しかけてきた。

「頼之の……あおいちゃんに逢って来た。いつも明るくて賑やかな子だね。……あの子なら、楽しい家庭になるんだろうな。」
「ふぅん?頼之くんと一緒に?」

何気なくそう聞いたら、小門はちょっと逡巡してから口を開いた。
「いや。真澄と。」

さすがに、びっくりした。
……隠すつもりはないのか。

「そうか。……よかったな。……って、言っていいんだよな?」
思わずそう重ねて確認してしまう。

小門は、苦笑して見せた。
「ああ。今さら、玲子を捨てることも、真澄と暮らすこともできないけど……2人とも大事にしたい。」

まるで一夫多妻制だな。
でも、20年かかって出した答えだと思うと、外野には何も言うことはできない。

「まあ……玲子にバレないことを祈ってるよ。」

小門は苦笑して、コーヒーを飲み干した。