19時の閉店時間になっても、まだ店内には高校生達がはしゃいでいた。
「そろそろ閉めたいんですけどね。」
キリがないのでそう言って、帰るよう促した。

……やれやれ。

ようやく無人になった店内を片付ける。
掃除ロボットを稼働させつつ、いただいたチョコの山をいくつもの紙袋に入れていると、ドアが開いた。

小門か?

振り向くと、エントランスに立っていたのは、白い息を弾ませたなっちゃんだった。

……来たか。

「お店、もう終わりですよね?」
「……ああ。遅かったね。もう帰るところだけど。」

ホッとしたようになっちゃんは息をついてから、笑った。
「よかった!敬語じゃない!……これ、召し上がってください。」
なっちゃんが差し出した紙袋の中には、小さめのチョコレートケーキらしきモノが入っていた。

「なっちゃんの手作り?」
そう聞くと、なっちゃんはコクリとうなずいた。

「じゃ、いただこうかな。ありがと。」
お礼を言って受け取ってから、再びチョコの山を片付けた。
すぐに帰る様子もないなっちゃんの表情を目の端で確かめてから、言ってみた。

「もう遅いし、マンションまで一緒に帰る?」
なっちゃんの頬が紅潮した。

「はい!」
「……いや、同じマンションだし。」
つい苦笑が漏れた。

持てるだけのチョコ入り紙袋と、なっちゃんのくれた手作りケーキを持ってマンションへ。
「毎年、どうされてるんですか?……すごい量ですよね、チョコ。」
「もちろん全て美味しくいただきますよ。」
余所行きの営業コメントを返す。
……なっちゃん自身も毎年くれてるのに、両親や親類縁者に配る、とは言えなかった。

「嘘くさい。」
ボソッとなっちゃんがつぶやいたのは無視した。

「そういや、久しぶりですね。風邪引いた時にイロイロしていただいたのに、何のお礼もできてませんでしたね。」
「お礼なんて、いりません。あ……欲しいものあります。純喫茶マチネのコーヒーチケットの綴り。」
なっちゃんの声が途中から震えた。

……もしかして、敷居が高くて店に来れなかったのか?
なんだ。
そうだったのか。

「喜んで。明日には準備しておきますよ。またいつでもお越しください。」
こみ上げた笑いは、営業スマイルじゃなかった。

なっちゃんは明らかにホッとして、脱力した。
……かわいい。

ムクムクと俺の中の血が騒ぎ出した。

バレないように、すましてエレベーターへ。