カフェ・ブレイク

「ダメ。せっかく久しぶりに逢えたんだし、夕食までおごってよ。」

今、何時だ?
まだ11時……いったい何時間ねばるつもりなんだろう。

しかも、タカってるし。
……やっぱり、おかしい。
俺は、こみ上げる笑いを抑えることができなかった。

「……ふーん?マスター、変わったね。いいことあった?」
中沢さんが、マジマジと俺の顔を見てそう聞いた。

すぐ隣の常連さんが、中沢さんに言った。
「そりゃもう、マスターはこの一年ずっと上機嫌やで。ずーっと好きやった美人の嫁さんが、かわいい赤ちゃん産んでからは、性格もコロッと変わったわ。なー?」

中沢さんは目を見張り、隣の小デブはどっと脱力した。

「そうなんだー!おめでとう!よかったねえ。本当によかった!ねえ!」
驚いたことに、中沢さんの目には涙が滲んでいた。
そして、小デブもまた目を赤くした。

「……妻を、呼びましょうか?」
コーヒー豆を計りながらそう聞いてみた。

小デブが慌てて席を立った。
「帰りますっ!」

「わかったわかった。ごめーん、マスター。僕は会いたいけど、郡(こおり)くんは、ばつが悪いみたい。」
こおり……それは、なっちゃんの初婚時の名字だ。

そうか。
こいつが、元旦那なのか。

「どうも。その節は、お世話になりました。」
一応、他の常連さんの手前、そんな風にぼかして挨拶してみた。

郡くんは、恐縮してるらしく、からくり人形のように頭を下げた。
「こちらこそ!夏子さんを幸せにしてくださって!ありがとうございます!」

……ぼかした意味なし。
声、でかいよ……郡くん。

常連さんたちは口々に情報を交換して補完し納得し、テーブル席の新顔の学生くん達までもが揃ってこっちを見てる。

気恥ずかし過ぎる。

「……滅相もない。私も彼女に幸せをもらってる身です。」
控え目にそう言ったつもりだけど、なっちゃん贔屓の常連さんたちは容赦なかった。

「そうかー。なっちゃんの……。そうかー。」
「あんたも、早よ、次のん見つけやー。え?もう、いるんかいな!なんや!それ!」
「結婚式の写真見るかー?綺麗やでー。」

とりあえず、わいわいやってる話の断片から、郡くんも既に再婚したらしいことがわかった。
まあ、よかった。

「中沢さんは、ご結婚されないんですか?もてるでしょう?」
初めてそう呼びかけてみた。

中沢さんはうれしそうに何度かうなずいてから、手を振った。
「僕は結婚に向かない男だから。それに今は、漢(おとこ)のケツ追っかけるのに必死。」

……そういや、競輪選手の追っかけするとか何とか言ってたっけ。