カフェ・ブレイク

天を仰いでため息をつく。

信頼されてないとは思わないけど、ずっと真澄さんを想ってた俺へのトラウマかもしれない。

でも、俺はなっちゃんを洗脳するように耳元で言った。
「それは人選ミスだったんだよ。最初から俺だけだったのにな。お互い遠回りしたけど、残りの人生は俺だけ見といて。」

「……はい。」
なっちゃんはうれしそうにそう返事をしたけれど、
「ああっ!また出てるっ!」
と、慌てて俺から離れた。


日付が変わって、2月16日。
病院の待合室の窓から、白い雪が降り出したのを眺めていると、分娩室のドアが開いた。

大きな泣き声が聞こえてきた。
「生まれた!」

病室から出てきた看護師さんが笑顔で言った。
「お母さんも赤ちゃんも元気です。すぐに会えますので、待っててくださいね。」

手渡されたマスクや紙の帽子、割烹着のような紙のモノを着せられて、すぐ、分娩室に呼ばれた。
真っ赤な赤ちゃんは、びびるほど小さくて、確かに可愛かった。

けど、それよりも、なっちゃんが真っ青ですごくつらそうに見えた。
「しんどい?」
なっちゃんの手を握ってそう聞いてみる。

「……痛い……」
そう言って、なっちゃんはホロホロと涙をこぼした。

「あの、痛がってますけど……大丈夫ですか?」
思わず看護師さんを呼び止めて、そう聞いた。

「大丈夫ですよ。胎盤も出ましたし、切開部も綺麗に縫ってもらえましたよ。……今は子宮が猛スピードで収縮してる痛みで、生理痛と同じですよ。」
若い看護師がニッコリほほ笑んでそう言った。

「生理痛だって。」
なっちゃんにそう言って、汗でぺったりと額にくっついた髪をそっと掻き上げた。
「さっちゃん、美人になりそうだよ。」
「……そうね。」

たぶん、「ヨシト」はイケメンなのだろう……そこにだけは感謝しておくよ……桜子のために。


明け方、なっちゃんの代わりに、桜子の祖父にあたる竹原オヤジにメールで報告した。
名前と、画像を添付して送信すると、すぐに電話がかかってきた。

「おはようございます。朝っぱらからすみません。無事に生まれました。」
『……ありがとうございます。夏子さんは無事ですか?』
孫じゃなく、なっちゃんの心配をしてくれた竹原オヤジに、俺はちょっと好印象を覚えた。

「貧血と痛みがまだあるようですが、大丈夫みたいです。桜子は、元気に泣いてます。」
『そうですか……。よかった……。』

心からの言葉だとちゃんと伝わってきた。