カフェ・ブレイク

「甘えたモード?」
「うん……淋しかった。ずっとそばにいてほしい。」
すりっと頬をすりつけてくるなっちゃんの背中や腰をさする。

「いるよ。ずっといる。……でも分娩室は勘弁ね。」
……マジで、今後の性生活のトラウマになりそうだ……。
なっちゃんは不満そうに頬を膨らませて見せてから、笑った。

「わかった。でも、待っててね。」
「もちろん。……名前、決めた?」

お腹の子は、ほぼ女の子で確定らしい。
いくつかの候補を挙げているのだが、なっちゃんは首を横に振った。
「章さんに決めてほしい。」

……やっぱりそうきたか。
そう言われるだろうな……と思っていた。

ちょうど雪が降りそうだから「風花」もいいかなとも思うんだけど……何となく、なっちゃんが桜の花にこだわっているのを感じていた。

「『夢見』か『桜子』で悩んでる。どっちがいい?」
夢見草は桜の別称でもある。

「古城夢見……古城桜子……」
なっちゃんがつぶやく。

「『夢見』もかわいいけど、『桜子』のほうが綺麗に決まる気がしないか?」
「桜子……さっちゃん?……私がなっちゃんで、娘がさっちゃん?」
「……続けて呼ぶとコンビみたいだな。」
苦笑したけど、ほぼ決まった。

「じゃあ、古城桜子。早く出ておいで……さっちゃん。」
お腹の中の桜子にそう呼びかけてキスする。

「あ、また出て来た。」
「破水?看護師さん呼ぶ?」
「……うん。」
涙目のなっちゃんの唇にもキスしてから、ナースコールを押した。

「……じょーじょー出てる……章さんにキスされると出るのかしら……」
恥ずかしそうにそうつぶやいたなっちゃん。

「なんだ。それっていつものこととちがう?」
俺の指でも唇でも舌でも、すぐにしとどと濡れるなっちゃんをそうからかった。

「桜子も、章さんのことが好きみたい。」
そう言ってから、なっちゃんは、さらに赤くなった。

「……何か、心配になってきた。桜子も章さんを、男性として好きになっちゃったらどうしよう……娘と寵愛を争うのは嫌だわ……」
「阿呆か。」

さすがに呆れた……愛しいけど。
「めいっぱいかわいがる予定なんだから、実の娘に嫉妬するなよ。」

「……自信ない。」
そう言って、なっちゃんはきゅーっと俺にしがみついた。

「意外と、焼き餅焼きやさんだったんだねえ、なっちゃん。」
「……ほんまに意外。……こんなキャラじゃなかったんだけどなあ。……章さんだけは特別みたい。」

何となく、俺の中にもジェラシーがこみ上げてきた。

……たぶん、他の男……元旦那とか、桜子の遺伝子上の父親「ヨシト」の時と比較しての言葉なのだろう。