カフェ・ブレイク

「わかった……ごめん……」

小さく息をついて、母親に対峙した。
「なっちゃんを幸せにしたいと、ずっと思ってた。でも今は、なっちゃんのお腹の子も幸せにしてあげたいと思ってる。生まれてからじゃなくて、今からちゃんと俺の子として愛してやりたいし、大事にしたいし、誕生を待ってて祝ってあげたい。だから、すぐに入籍する。」

きゅっ……と、なっちゃんが俺の手を強く握った。

母は何とも言えない、優しい顔になった。
「……そう。……そうね。それがいいわね。……いいわ。……入籍なさい。ただし条件が1つ。2人で暮らすのは、出産後にしなさい。」

やだよ!

「何で、入籍して別居なんだよ!」
「別居って言っても、朝も夜も一緒にご飯食べてるじゃない。……これからますますお腹が大きくなって、夏子さん、大変なのよ。あんたじゃ役に立たないし、心配だもの。」
母は頑として譲らなかった。

役に立たない?
失礼な!

「大丈夫だよ。何かあったらすぐ電話するし。同じマンションなんだなら、救急車より早いし。」
俺のお気楽な言葉に、母は少し切れた。
「何かあってからじゃ遅いのよ!」

マジで怒ってる母に、なっちゃんは感謝の念でいっぱいのようだ。
「ありがとうございます……。」
と、ホロホロと泣き出した。

母は、何も、俺たちの仲を邪魔しようとしてるわけではないし、反対してるわけでもない。
本当に、なっちゃんの体が心配なのだ。
それは俺にもわかる。
わかっているだけに、それ以上強く言えなくなってしまった。
でも、あと3ヶ月以上も、別々の部屋で眠るのはつらい。


ジレンマに陥った俺に、なっちゃんはほほ笑みかけた。
「いっそ、章さんもココで暮らしません?そしたら、淋しくないし、心強いし……うれしいし。」

なっちゃんの提案は、折衷案として上出来だった。

「……まあ、部屋はいっぱいあるし、あんた1人ぐらいなら置いてやってもいいけど……」
母親がわざとしかつめらしい顔でそんな風に言った。

「そうだな。独居老人の孤独死も防げるしな。」
「章さんっ!ひどっ!」
なっちゃんが慌てて諌めた。

でも、一拍置いて、なっちゃんは俺を見て、確認してきた。
「……てことは、ずっとお母様と一緒にいていいの?」

ほら。
この顔だ。
なっちゃんの、喜びを抑えきれない、上目遣いに俺を見上げる顔。
この愛らしい顔を見られるのなら、何だってしてやりたい。
本気で俺はそう思ってる。

「ああ。でも、2人で結託して俺を苛めるのは、勘弁な。」

そう言って、なっちゃんの頭をそっと撫でた。