カフェ・ブレイク

「ええ。ちょっと気になって。……何年か前に、父は再婚した奥さんの家に引っ越したんです。生家はもう売っちゃっただろうから、他の人の所有物だとは思うんですけど……お家自体が残ってるのか、取り壊されちゃったのか……」
少し淋しそうに、なっちゃんは首をかしげた。

……中学2年生まで住んでたんだよな……愛着あるよな。

「了解。ナビってくれる?」
「私が運転しましょうか?」
「ダメ。俺がする。」

なっちゃんの運転に危なげなところはない。
でも、これからもずっと、一緒の時には俺が運転したかった。
変なこだわりかもしれないけど。

なっちゃんの生家は、展望台からすぐ……いわゆる豪邸条例の該当地だった。
しかし、別荘が多いのか、空き家が多いのか……門から建物まで距離があるせいもあるか……何となく区画全体が暗くて静かな気がした。
ゴーストタウンとまで言ってしまうと、言い過ぎだろうか。

「ここです。」
なっちゃんが指差したのは、石垣の立派な角地。

大きな石を高く積み上げ、その上にはぐるりとカナメの生垣。
あまり手の入ってない庭園と、古いモルタル造りの大きな家。
……一言で言えば、時代遅れの古い家だった。
でも表札は「大瀬戸」のまま。

「……売ってない?」
なっちゃんは首をかしげていたけれど、俺は苦笑してしまった。

そりゃ、売れないだろ。
今のこの時期に、この土地のこの家は誰も買わない。
活用しづらいにも程がある。
整地にも、普通よりかなり金がかかりそうだ。

まあ、土地は広くても単価は安いし、建屋もどう見ても25年過ぎてるから……逆に俺が買おうと思えば買える値段だが……。
改築して、別荘にするか?
なっちゃんが喜ぶならそれもいいかもしれない。


そんなことを暢気に考えてると、なっちゃんは道を挟んで斜め前の家を指差した。
「あの、明かりの灯った家……あそこに、父が今の家族と住んでいます。」

視線を移すと、そこには、なるほど山荘風に建てたおしゃれで綺麗な家が見えた。
芝生敷きの庭にはバスケットゴールやサーフボードも見えた。

「ふーん。……挨拶してく?」
なっちゃんは思いっきり首を横に振った。

「もしかして、妊娠してること、言ってないの?」
「……はい。相手を聞かれても答えられないから。」
まあ、そうかもしれないな。

「お母さんにも?言ってないの?」
ちょっと強烈だったなっちゃんの母親を思い出した。

「いえ。母には言いました。相手は言ってませんけど、勝手に誤解してます。」
「もしかして、それもあの竹原さん……オヤジのほうって勘違いさせてるの?」

なっちゃんは苦笑いして見せた。