カフェ・ブレイク

……オヤジの声は低いから聞き取れないけれど……なっちゃん?……逃げて来たのは、オヤジからじゃないのか?

他に誰が……

いや、待てよ。

お腹の子の父親には妊娠を告げずに逃げて来たんじゃなかったか?

あれ?
……相手は、あのオヤジじゃないのか?

マジか!
俺の啖呵は……何だったんだ?

注いだコーヒーを2つの温めたコーヒーカップに注いで、目の前の頼之くんにまず出した。

まだ熱いだろうに、頼之くんはすぐに口を付けて、ニッコリ笑った。
「うん。いつも通り、めっちゃ美味しい!」
……わざわざそんな風に言ってくれる頼之くんの気持ちが、沁みた。

いい子だよ……ほんと。

頼之くんに背中を押してもらい、竹原オヤジにコーヒーを出した。
「ありがとう。……ああ、コウルドンのカップ。なるほど。夏子さん、コレでしたか。ふふふ。……うん、すごくいい香りだ。いただきます。」

「どうぞ。ごゆっくり。」
何か、拍子抜けしたかも、俺。
さっきまでの気負いが嘘のようだ。

「私も欲しい……」
なっちゃんが珍しく、おねだりしてきた。

「はいはい。なっちゃんは、デカフェ豆ね。ちょっと待ってて。」
「……なっちゃん……」
クックック……と、オヤジはコーヒーの感想を言うより先に、楽しそうに笑った。

「要人さん!何がおかしいんですか!もう!……そりゃ30過ぎて、気恥ずかしいけど……」
なっちゃんは真っ赤になった。

「いやいや。歳は関係ないですよ。……なっちゃん、ね。アーッハッハッハ!」
何がおかしいんだか、オヤジは涙を滲ませる勢いで笑い出した。

「もう~~!!!」
ぷりぷり怒るなっちゃんを手で宥めて、オヤジは上機嫌で俺に言った。

「いや、失礼。あまりにも、私の知ってる夏子さんとかけ離れてるんですよ。京都では、そりゃもう、冷めたお嬢さんだったんですよ。夏子さんは。」

……ああ、なるほど。

「1人で、知らない土地へ行って……心細かったのでしょう。」
そう言って、なっちゃんの頭をポンポンと軽く叩くように撫でた。

なっちゃんは、ふにゃ~っと、表情をゆるめて俺を見上げた。
やばい……マジでかわいい。

「……夏子さん、よかったね。『なっちゃん』でいられる場所に戻れて。……古城さん。どうか、よろしくお願いします。」
竹原オヤジはそう言って、再び立ち上がり、俺に深々と頭を下げた。

さすがに驚いた。

「や、こちらこそ……」

と、よくわからないことを答えてしまったけれど、竹原オヤジは納得したらしく満足げに何度もうなずいた。