黙ってる俺に、なっちゃんは悲しい笑顔を見せた。

「ここね、いつもすごい行列なんです。私は、餡なしの豆餅が好きなんですけど……混んでる時には並んでも作ってもらえないんです。予約しとかないと。……餡なしの豆餅……久しぶり。」

そう言いながら、なっちゃんは小さい扁平な豆餅を両手で持って食べてた。

「うん、美味しい。塩加減もお餅の味も黒豆も最高。」

ニッコリほほ笑んでみせたけれど、その目の端にまだ涙がにじんでいた。

たまらず、俺はなっちゃんを抱きしめた。
「……無理して笑わんでいいから。」

少しの沈黙の後、かすかな嗚咽とともに、胸元が生温かく湿ってくるのがわかった。
「……泣かれるほうが……嫌かと……思って……」
しゃくりながら、なっちゃんがそう言った。

嫌だよ。
でも、感情を偽って無理されるのも嫌だ。

「今は我慢しなくていいんじゃない?……何から逃げて来たんか、よぉわからんけど、ココに帰って来たのは一時的な避難じゃなくて、ちゃんと地に足つけて幸せになるためやろ。素(す)のまんまでいたらいいやん。」

「……す……」
「うん。すぅ。……俺、素のなっちゃんが、好きやから。」
「……好き……」
俺の言葉を繰り返すなっちゃんが、かわいかった。



「京都は、楽しかった?」

少しお腹のせせり出たなっちゃんの白い肢体は、神々しいほどに美しかった。

「ん。楽しかった。ちゃんとイイヒト達に出会えて。一生モノの思い出もできて。……逃げて来たって言っても、危険や嫌なことから逃げたんじゃないから……安心して?」

指の1本、髪の一筋までもが、尊く愛しい。

「……わかった。でも確かに、離婚して帰って来た時とは顔つきが違う。」
「そうなの?……そうかもね……」
なっちゃんは感慨深げな瞳をした。

「……綺麗だ……」
思わずそうつぶやいてしまうほど、なっちゃんは内面から静かな光を放っているように見えた。

「恥ずかしい。もうお腹、膨らんでるのに……」
本気で恥ずかしいらしく、なっちゃんは必死でシーツで腹部を隠そうとしていた。

「……これからもっと大きくなるんだよね。想像つかない……なっちゃんの細い足腰で支えられるのかな……」
そう言いながら、なっちゃんの白い背中からお尻を舌でたどった。

ビクビクッと背中を反らして震えるなっちゃんが可愛くて可愛くて……