カフェ・ブレイク

沈黙を破ったのは、小門の苦笑だった。
「マスター。……いくらなんでも、極端過ぎるよ。」

正直なところ、俺もそう思う。
でも、素直な気持ちだった。

「章(あきら)さん、ありがとうございます。でも、お気遣いなく。1人で何とかしますから。」
なっちゃんは、目を伏せてそう言った。

「ほっとけない。てか、もう充分ほっといた。」

俺は、何を言おうとしてる?
俺は、どうしたいんだ?
自分でも歯止めがきかない。

あの朝、行き場を失って凍結してたなっちゃんへの想いが、一気に流れ出ようとしている。

危険だ。
小門の言う通り、極端過ぎる。



いつの間にか、店内は静かになっていた。
BGMだけが場違いに楽しそうで、俺はちょっと笑ってしまった。

いつだって、なっちゃんは、俺の理性を崩してしまう。
何年たっても。
従順なようでいて、思い通りになってくれないのに。

俺につられたらしく、なっちゃんもちょっと笑った。
その笑顔がただただ愛しくて……俺の気持ちは決まった。

「ずっと後悔してた。何でもっとちゃんと引き留めなかったのか、って。二度と後悔したくないから。一緒にいてほしい。」

お客さまと小門が固唾を飲んで見守る中、なっちゃんは悲しそうに言った。
「でも、あの頃と今とは事情が違うから……。別の後悔をさせてしまうのが目に見えてるのに、章(あきら)さんに甘えられない。」

……まあ、確かにそうかもしれない。
「後悔するとは限らないと思うけど。」

すぐに弱腰になった俺に、お客さまが声をかけた。
「マスター、もっと押さな!」

なっちゃんの頬が赤くなった。

小門が、お客さまのほうを向いて
「マスターなりに、まあ、がんばったほうじゃないですか?何せ優柔不断な男ですので、今度こそうまくいくように、ご一緒に応援してください。」
と、わけのわからない挨拶をした。

優柔不断で悪かったな。

「じゃあ、マスター、また来るよ。行こうか。」
小門がなっちゃんにそう声をかけた。

「はい!」
なっちゃんは笑顔でそう返事をして立とうとした。

「何で?」
2人は待ち合わせしてたのか?
これからどこへ行くんだ?

てか、何か、仲良くないか?
なっちゃん?……小門に向けるその笑顔は何なんだよ。
絶対!俺に対してより、信頼感抱いてるぞ!
そんな瞳で小門を見るなっ!

マジでイライラしてきた。
今さらながら、小門に嫉妬しそうだ。
……今さら、だよな。

「これから玲子と合流してランチ。……こっちに引っ越すまでうちに泊まればいいよ。」
小門がなっちゃんに笑いかける。

ダメだ!限界!

「うちに泊まればいいじゃないか!今夜から!」

ぷっ……と、お客さまが笑ったのが聞こえた。