カフェ・ブレイク

ビクッ!と、私の体が大きく揺れて……ティーカップを放り投げるかのように手放してしまった。

「いやーっっ!!」

決して小さくない叫び声をあげてしまったけれど、それ以上に大きく派手な音をたてて、ティーカップは割れてしまった。

……ショック過ぎる。

私のティーカップ……コウルドンのエンボスゴールドヴァイン……。
アンティークだから再び巡り会えることはないと思うと、泣けてきた。
金継ぎでもしようかしら。

しゃがんでティーカップの破片を拾ってると、すぐ下から声をかけられた。

「大丈夫ですか?」

低いよく通る声に驚いて顔を上げた。
(たぶん)竹原くんのお父様(であろう人)が、すぐそばまで来ていた。

「……すみません、お騒がせいたしました。」

慌てて涙を払って、立ち上がり、そう謝った。

再び目が合った。
深い……瞳の奥が……怖い……。

「痛っ!」

つい、割れた破片を持ってたことを忘れて、手に力を入れて握ってしまった。
血がにじみ出す。

「手ぇを切ったんですか?」
柔らかいじゃらじゃらした京都弁ってこういうのかしら。

「はい。でも、大丈夫です。」
何が大丈夫なんだか……血は一向に止まらず、滴り流れ始めた。
下からもそれが見えたらしい。

「救急車をお呼びしましょう。」
彼はそう言って、懐から携帯電話を取り出した。

「そこまでしなくても!ちょっと切っただけですから。どうかお構いなく。」
慌てて止めたけど、彼は既に電話を耳に宛てていた。

「あの!ほんとに大丈夫ですから!私、養護教員なので、手当、自分でできます~!」
一生懸命叫んだけど、彼は本当に救急車を呼んでしまった。

5分ほどで到着した救急車には、私より先に彼が乗り込んでいた。
……割れたティーカップの破片を摘まんで持って。



私の手の傷は、少し切っただけだと思っていたけれど、けっこうザックリいってしまっていたらしい。
運ばれた病院で3針縫うと言われて処置室に移動した。
実際には、糸ではなく、スキンステープラーという医療用ホッチキスで3箇所止められた。

化膿止めの抗生物質と痛み止めの処方箋を待っていると、救急車を呼んで付き添ってくれた彼がおもむろに名刺を差し出した。

名刺には、会社名と代表取締役の肩書きとともに「竹原要人」と書かれていた。

……やっぱり……。

「竹原……義人(よしと)くんのお父様でいらっしゃいますか?」
竹原さんは驚いた顔をされた。
「愚息をご存じでしたか。」

愚息……。

「私、今年の1月から息子さんの学園で養護教諭をしております、大瀬戸と申します。駐車場の件でもお世話になりましたのに、ご挨拶が遅れて、申し訳ありませんでした。」

立ち上がって頭を下げてそう言った。