カフェ・ブレイク

「竹原くん、末端冷え性?指、冷たい。」
思わずそう聞くと、竹原くんは変な顔をした。
「いや。単に緊張してるんやと思うけど。……どさくさ紛れに触ってしもた。やばい。ドキドキする、って。」

緊張って。
「やめてよ。私まで意識しちゃうじゃない。」
微妙な空気を、そう言って壊してみた。

けど、やっぱり竹原くんのほうが、上手(うわて)みたい。
「……対象外より、ずっといいわ。意識して。俺のこと。急かさへんし。」

「……!」

言葉が出ない。
頬が熱い。
たぶん赤くなってるのだろう。
こんな子供に、中学生に……翻弄されてる。

「あ。これは、マジで旨い。たけのこのケーキ。」
いつまでも黙ってうつむいてると、竹原くんは空気を変えてくれた。

「ケーキも食べちゃったの?紅茶入れるのに。」
慌てて席を立ち、お湯を沸かす。

「うん、もらうけど。夏子さんも食べてみて。旨いわ。」
竹原くんに促されて、たけのこを口に入れた。
ほんとに美味しかった!

「甘酸っぱいシロップ煮にしてるのね。たけのこの食感がすごくいいわね。うん、これ、好きだわ。」
美味しいものを食べると、緊張なんかどこかへ飛んでしまって、勝手に顔がほころぶ。

パクパク食べてて、ふと気づくと、竹原くんが優しい目で私見ていた。
……年上の女に対する憧れ?でもあるのかしら?
悪い気はもちろんしないし、釣られてドキドキしてくる。

参ったな。


週末の土曜日、朝から電車で母の婚家へと向かった。
3ヶ月間置かせてもらっていた愛車のトヨタ86に、1年間置かせてもらっていた荷物を積めるだけ積んで、残りは発送手続きを済ませた。

翌日曜日の朝、大量の荷物を受け取り、やっと家財道具が一通り揃った。
お気に入りのアンティークカップで、ロータスティーを飲んで、ようやく人心地。

ベランダの向こうは、竹原くんのお父様の会社の壁しか見えない……と思っていたけれど、端っこまで行ってよくよく覗くと、会社の窓の向こうに、さらに廊下か小部屋か吹き抜けを挟んだ窓が見え、その向こう側に桜が咲いていた。

中庭があるのかしら。
真新しい石の瀟洒な建物に似合わない、いかにも日本庭園の苔と桜。

もしかして、公家屋敷の庭園がそのまま残ってたりするのかな。
綺麗だな~……と、ぼーっと見とれた。

不意に人影が横切った。

日曜日でも出勤してらっしゃる社員さんがいらっしゃるのね……と、ティーカップを持って眺めるともなく眺めていると、その人が顔を上げて桜を見上げた。

……その横顔は、竹原くんを大人に……というよりはダンディーなおじさまにしたようだった。
間違いなく、竹原くんのお父様じゃないかしら。
細身のスーツをバリッと着こなして、髪を後ろに撫で付けて……カッコイイ。
タカラヅカのお髭の似合うおじさま専科みたい。

20年ぐらいたったら竹原くんもこんな風になるのかしら、としげしげと見ていると、突然その人がこっちを見た。

バチッと目が合った!