カフェ・ブレイク

……素直な反応がかわいくて、笑いたくなるのを必死で隠してフォローした。
「でも、ありがとう。わざわざ、こわーいお父様に頼んでくれたの?」

気まずそうに竹原くんは首を横に振った。
「父は忙しい人やから、夕べ、母を通じて父の秘書さんにお願いしてん。さっき、隣でもろてきてんけど……」

そう言って、竹原くんは紙袋の中からクリアファイルを取り出して私に手渡してくれた。

「なぁに?」
ギョッとするほどちゃんとした「駐車場賃貸契約書」だった。

ん?賃貸?
……てっきり、社用駐車場をタダで占拠していいって話だと……

「あらら。私の勘違いだったみたい。ごめんなさい。ちゃんと代金をお支払させていただけるなら、遠慮なくお借りしたいわ。……ありがとう。」

やっと竹原くんの愁眉が解けた。
「よかった。じゃあ、ここにサインして。はい。」
竹原くんはポケットから高そうなペンを出して、私に押し付けた。

キャップを開けると、万年筆だった。
「君、万年筆を常用してるの?」

「いつもちゃうけど。契約書とか手紙は万年筆やろ。早く!サイン!」
急かされて、私は言われるがままに、自分の名前を記した。

金のペン先から、するすると気持ちよくコバルトブルーのインクが出てきた。
「これ、書きやすいね。どこの万年筆?」

「ペリカン。イロイロ試したけど、これが一番気に入ってるねん。」
私から契約書を奪い取り、竹原くんは大事そうにクリアファイルに戻した。

「はい!お疲れ様!これで契約完了!……料金は1か月3千円。振込でも、隣の会社に直接持ってっても、俺に渡してくれてもいいし。」
「3千円!?安すぎる!この辺の相場2万5千円ぐらいって聞いてるのに!」

ギョッとしてそう文句を言ったけれど、どうやら確信犯だったらしい。
竹原くんはニンマリと笑って、契約書のファイルをひらひらと振って見せた。



「それから、これ。引っ越し祝い?夕食にどうぞ、って、母から。……夏子さん、お茶入れてーな。一緒に食べよ。」
竹原くんは、契約書を赤い紙袋に納めると、ゴソゴソとラッピングされた箱や水筒を取り出した。

「え!ええっ!?いいの?……駐車場でご迷惑かけるのに、さらにこんな、いただいちゃうって、何だか申し訳ないんだけど。」
「いーのいーの。母の趣味みたいなもんだから。パイとスープとケーキだって。」

わー、めっちゃカロリー高そうな取り合わせ。

「お母様、お料理、お好きなの?」
「いや。簡単なことしかせえへん。家の裏は有名料亭やし、道楽でフレンチの店に出資してはるし。これも店のシェフが作ったやつ。……大概、旨いし大丈夫やと思うけどな。」

話が一般家庭と乖離(かいり)してる。

やっぱり、竹原くん、成金でも「ぼんぼん」じゃない?