カフェ・ブレイク

テーブルのお客様の注文をうかがってからカウンターに戻ると、なっちゃんは鞄からレターセットを取り出して、せっせと綴り始めた。
目の端で気にしながら、丁寧にコーヒーを入れてテーブル席にお届けする。
後片付けしていると、なっちゃんが書き上げたらしい手紙を封筒に入れた。

「マスター。帰ります。おいくらになりますか?」
「いつものブレンドの金額をちょうだいいたします。」
「……だって……」

ためらうなっちゃんに、首を横に振ってみせた。

「アレは売り物にはなりませんから。またいらしてくださいね。」
なっちゃんはうなずいてから、俺にお金と封筒を渡して、軽やかに帰って行った。
スカートを翻しての退場は、清々しくすらあった。


夜、店を閉めて帰宅してから、なっちゃんにもらった封筒を開いた。
紅葉の柄のレターセットに、女の子らしいきれいな文字。

「今日は、ごめんなさい。
でも、マスターが私に敬語以外の言葉で話してくれて、うれしかったです。
他のお客さんがいない時だけでいいので、また今日のように話してもらえますか?」

……なっちゃん、マゾっ気あるよな、これ。
俺は苦笑して、手紙を封筒に戻した。
ゴミ箱に投げ捨てる気にはなれず、何となく机の引き出しに放り込んだ。


翌日からも、特に気にしないそぶりで、なっちゃんはふらりとやってきた。
とは言っても、なっちゃんの希望通りに俺が敬語を崩すことはなかったけれど。

唯一、小門となっちゃんだけの時は、何となく敬語が崩れた。
小門は、なっちゃんの存在に慣れたらしく、気を遣って無理に話しかけることもなくなった。

まるで別々の方角から来た渡り鳥が、大きな木で羽を休めてるかのような、そんな空間が俺は好きだった。



クリスマス間近の寒い夕暮れ時。
いつも通り、小門は会社帰りにうちに寄った。

秘書がデパートで買って来てくれたというおもちゃの包みを大事そうに見せてくれた。
同じ大きさ、同じ包装紙、リボンの色だけが違う2つのプレゼント。

青いほうを頼之(よりゆき)くんに、水色のほうを伊織(いおり)くんに贈るのだと言っていた。

頼之くんのおじいさん、つまり、真澄さんのお父さんで、小門の舅で社長に当たるかたが入院しているのだが、病室で頼之くんと会えるように取り計らってくれたらしい。

小門は子供のように指折り、その日を楽しみにしていた。

でも、それは叶わなかった。