カフェ・ブレイク

「ほな、帰るわ。」
竹原くんは、あっさりそう言って玄関へと向かった。

え?もう?
……まあ、もてなすモノもないし、居座られても困るし、頃合いなんだろうけどさ。
もう少しイロイロ聞いてみたい気がした。

「台車、返しとくし。」
靴を履きながらそう言った竹原くんにお礼を言う。

「ありがとう。お手数おかけします。よろしく。」
笑顔を残して、竹原くんは行ってしまった。

何だか、どっと疲れを感じた。
不思議な子。
外見だけの、チャラい子じゃないとは思ってたけど……全然つかめない。

……でも……お姫様抱っこには……参ったな。

2年前、新婚初夜の翌日、新居に入るときに栄一さんにお姫様抱っこをおねだりしたのに、断られたのよね。
あの後も何度も引っ越したけど、お姫様抱っこで新居に入れたのは初めて。
ちょっとうれしいじゃないの。

……幸せな生活が始まるのかもしれない。
春の陽気も手伝って、私は鼻歌まじりに荷ほどきを進めた。



翌日、春休みで誰も来ない保健室業務の後、買い物をしてから帰宅した。
まるで私の帰りを待ってたかのように、程なく、エントランスからの呼び出し音が響いた。

「はい?」
『俺。開けて。駐車場なんとかなりそう。』

モニターに笑顔の竹原くんが映っていた。
でも偉そうに、「俺」って!

「だぁれ?お名前は?」
敢えてそう聞くと、竹原くんは皮肉っぽく、笑った。

『カメラ映ってるんやろ。』
……ま~~~、生意気。
渋々、ロック解除をした。

すぐに玄関チャイムが鳴った。
「夏子さーん。開けてー。」

はいはいはい!
「叫ばないでくれる?隣近所に聞こえるわ。」

そう言いながら戸を開けると、竹原くんは赤い紙袋を提げて、ムッとしたように言った。
「玄関の鍵開けといてくれる?下で声かけてんのに。気が利かんわぁ。」

はあ!?
「……君ねえ……」

「もう!いいから!聞いて~な。車!置いていいって。このマンションのすぐ裏の月極め、1台分使っていいって。」
竹原くんは、胸を張って得意そうに言った。

「……なんで?」
いったい誰に許可をもらったというの?

「駐車場、近くやないと不便やん。どうせ父の会社かて駐車場全部使ってるわけでもないし……ただ、今後、土地を買うための布石やねんから、1台分ぐらいイイやん。」
しれっとそう言った竹原くんに、私はちょっと呆れた。

「公私混同よ、それ。……お父様がワンマンだからって、君がそれを真似るのは、よくないと思うわ。」

私の言葉で、竹原くんはおもしろいぐらいに顔色を変えた。

さっきまでの誇らしげな様子が、みるみるうちに萎れてしまった。