カフェ・ブレイク

4月1日の夕方。
女子会館とは御所を挟んで反対側のマンションに引っ越しした。
お世話になった人たちに挨拶をして、わずかな荷物をスーツケースと台車で運ぶだけの簡単な引っ越し。

「往復する気?手伝うわ。」
どこから現れたのか、いつの間にか竹原くんが台車に手をかけていた。

「……ありがと。御苑の向こうまでお願いします。」
断る理由もないか、とご厚意に甘えた。

「今日は御所、通らんとき。スーツケース、砂利で傷むで。遠回りやけど今出川上がろう。」
今日は、って……。
私がいつも通ってるって知ってたの?

「竹原くんって、変な子。何でもお見通しみたい。」
竹原くんに案内されるまま北上しながらそう言った。

「子ぉ?」
不満そうに聞き返した竹原くん。
……子供じゃないの。

「中1から中2になっても、子供は子供でしょ。」
わざとそういう言い方で、この生意気なドン・ファンを押さえつけようとした。

でも竹原くんは、私の手に負える子じゃなかった。
振り返って茶目っ気たっぷりに笑って言ったのだ。
「元服も初陣(ういじん)もとっくに済んでますけど?」

目が点になった。
……それって、童貞じゃないって意味かしら。

てか、それ以外に考えられない。

そうよね。
女子大生の部屋にお泊まりしちゃってるんだもの。
初陣どころか合戦(かっせん)で手柄を上げちゃってたりするのかしら。

目の前の中学生男子が急にたくましく見えてしまった。
気恥ずかしさを打ち消したくて、逆のことを言った。
「そんなに華奢な体でよく言うわ。背は高くても、体重は私より軽いんじゃない?」

私の前を歩いていた竹原くんが、ピタッと足を止めた。
「ちゃんと夏子さん1人ぐらい、お姫様抱っこで運んでやるけど?」
お姫様……。

「……オトナをからかわないで。」
やっとそう言ったけど、何だか息苦しく感じた。

「ひとっつもからかってへんねんけどな。」
竹原くんの声が少しかすれて聞こえた。

ずいぶんと遠回りをして今出川通に出ると、竹原くんが声をあげた。
「ほら、夏子さん、見て!」
指さされた方向に目をやると、白い大きな桜の木が今を盛りと咲き誇っていた。

「……綺麗……」
夕闇に白が映えて、桜の孤高を感じた。

煉瓦造りの学園の校舎を背景に、整然と美しい純和風のお屋敷の塀から顔を出す美しい桜。
主張しすぎることなく、ただ1本だけなのに、優雅な存在感があった。

「な!せやろ!俺、昔っからあの桜、好きやねん。他の桜より早咲きやから、気ぃ抜いたら見頃を逃してしまうねんけど。」
そいえば、まだ開花宣言が出たばかりなのに、この桜は見事に満開だ。

「去年の夏休み、夏子さんを見た時に、この木を思い出してん。……めっちゃ綺麗やのに淋しそうで。」

は?

桜から竹原くんに視線をうつす。

竹原くんは、とっくに桜ではなく、まぶしそうに私を見ていた。