カフェ・ブレイク

言葉にしてから、しみじみ思った。
……結局そういうことなんだよな。

なっちゃんには、説明しても理解してもらえないだろう。
でも、俺にとっての最優先事項は、真澄さんと頼之くんの幸せなのかもしれない。
どうせ報われることのない想いだけど。



ゴールデンウイークが開けた翌早朝、まだ開店前の店に小門がやってきた。
「おかえり。海南島どうだった?」

小門は憔悴しきった顔で言った。
「……最悪。玲子がずっと口もきかない。なあ。なっちゃんと今晩泊まりに来ないか?……気まずくっていたたまれないんだ。」

おやおや。
せっかくのリゾートビーチで痴話喧嘩か?
「なに?水着のおねーちゃんにでも見とれた?」

小門は失笑した。
「……ハイナンを勧めてくれた向こうの会社の人が、ホテルもレストランもエステも送迎車も全部準備してくれてて、VIP待遇だったんだけどな……当然、夫婦で来ると思われてたらしい。」

夫婦って……

小門は、スクラップブックに手を伸ばしながら嘆いた。
「空港で俺らを迎えてくれた向こうの社長のウェルカムボードを見た玲子の顔、俺、一生悪夢に見るかも。リアル般若だったわ、あれ。」

「……真澄さんの名前だったのか。」
「ああ。『小門総経理』『真澄夫人』になってた。その後もずーっと。玲子は意地になって否定しないから、頼之くんのことまで聞かれて、夜にくやし泣きしてたよ。」

……うわぁ~……最悪だな、そりゃ。
さすがに小門がかわいそうに感じた。
「そっか。まあ、それ見て、癒されてくれ。」

俺がそう言うのと、ページをめくっていた小門の手と目が止まったのは、ほぼ同時だった。
「これ?頼之くんか?」

「ああ。それ、遠足の時に撮ったんだって。生徒手帳から出して、貼り付けてたよ。」
「頼之くん……」

見るからにやつれてた小門は、やっとうれしそうな顔をした。
……いつまでも小さなプリクラ画像をいつまでも飽きもせず、ジッと見つめていた。

「……優しい子だな。真澄に育てられたんだもんな。」
しばらくして、小門がそうつぶやいた。

「いや……前は天使だったけど、今は……そうだな、負けず嫌い?闘争心強そうだよ。」

俺の言葉に、小門は驚いたようだったが、再びプリクラに目を落とした。
「……そうか。頼もしいな。」

うれいそうな響きに、俺の心も和んだ。