「ちょっ、待てって!ほら、遥人が見てんで」


うちにしか聞こえないような声でそう言った。

それがどうした。うちはもう遥人の顔を見て話されへん、顔を合わせたらさっきまでの事が頭に流れてまた顔が茹で蛸みたいになってしまう。


「見てないよ。うちなんか眼中に無いもん…からかって遊んでるだけのおもちゃ。都合のいい奴、それだけ。」


そう、来いって言われたら来て、手伝えって言われたら手伝う。そんな、「都合のいい奴」だ。


玲の胸に顔を当て泣いていると、奥の方から足音が聞こえ、だんだん近づいてくる。


「玲、留守番頼む。」


「どこ行くねん」


「……腹減ったから何か買ってくる。だから、2人で留守番しといて。頼む」


それは今咄嗟に思い付いたようだった。

やっぱ怒ったかな…


バタンっと大きな音を立て、財布を持たずに出ていった。