15分の特訓で、新入生は5つの音を出せるようになった。音がなるたびに嬉しそうに微笑みながら、次の音が鳴らないと不安がる新入生を、みやびは1年前の自分と重ねた。

吹奏楽の花形、トランペットに憧れて入部を決めたが、はじめは音が満足に鳴らない日が続き投げ出したくなっていた。
先輩の音はあんなにかっこいいのに、どうして自分はこんな音しかならないんだろうと、塞いでいた。はじめなんてそんなもんだし、焦る必要なんて全くなかったなと今なら思えるけど、
何もかもが新しくて落ち着かない高校1年の春にはそんな余裕がなかった。
それでも一音が鳴るたびに喜んでいた自分がいた。今当たり前にトランペットを吹いているのはあの時に音楽ができると楽しいと知ったからなんだな、なんてぼんやりと考えて暖かい気持ちになった。