モナリザの微笑

 どう不自然か、あいつは笑っていなかった。 いや、正確には笑ってはいるのだが、それは顔の片側だけだったのだ。反対側の口元は悲しい顔をしているようにさえ見えた。少し憂いを秘めた、そんな表情に…

 まるでモナリザだ、と俺は思った。
レオナルド・ダ・ヴィンチの代表作、フィレンツェの貴婦人の肖像画。謎多き絵画と言われている。一見笑っているように見えるが、顔の片側を隠すと片方の口元は実は笑っていないのだとか。
 あの絵のおかげで、人の表情は目ではなく、口元の上がり具合で決まるのだという、役立ちそうで実際には活用性のない知識を身につけたをふと思い出した。