卒業式のある週の授業は、進路先が決まっている者にとっては退屈でしょうがなかった。

授業の合間や、昼休みでの会話が思い出作りのようなもので、先生の話など全く耳に入ってこないまま全ての授業が終わった。


「授業が終わった途端、キミは息を吹き返すね」


幼馴染みであり、同じクラスでもある真美沢海(まみさわうみ)が、悪戯っぽい笑顔でやって来た。


「昨日、遅くまでバイトだったから眠くてしょうがないんだよ。まっ、そのバイトも今日で終わりだけど」


彼女は「ふうん」と目を細め、前の席の椅子にこちら向きで座った。

椅子の背もたれの上で腕を組み、こちらを見上げる姿は、幼馴染みという贔屓目抜きに可愛いと思う。


「バイトって確か・・・横西さんと一緒だよね」


『確か』という後に間が合ったのは、横西さんには様々な強面の噂が一部で流れていたからだろうか。


「横西さん、凄く頑張ってたもんね」


その言葉と表情で、海はそういった噂を気にしていないことが分かり安心した。


「あっ、かずくん」


声のほうを振り向くと、教室の扉の前に横西さんが立っていた。


「噂をすれば・・・だね」


「行ってあげなよ」と口にはしなかったが、その眼差しがそう伝えてくれた。

それに対して「ありがとう」と口にはせず、小さく笑って答えた。