卒業式を明後日に控えた日は快晴で、この季節にしては珍しく暖かった。

卒業を惜しんでか、全ての授業が終わったというのに教室にはたくさんの生徒が残っていた。



テラスに差し込む夕日が気持ち良さそうにみえ、窓からテラスへと出た。

手摺に手をかけ、ここから見える校舎や講堂、駐輪場を見渡す。

卒業が目の前にあると、いつも何気なく見ていたこの景色が愛おしく感じるのだから不思議だ。


「あっ、水谷さん」


隣の教室の窓から顔を出す水谷百合に気付き、そちらに駆け寄った。


「水谷さんも、この景色を見納めしてたの?」


「うん、そんなところ。それに、あなたがテラスにいるの・・・見えたから」


彼女は物静かな性格で、それだけに面と向かってそう言われると恥ずかしくなってしまう。

もっとも、それを口にした本人も恥ずかしいようだが。


「こっちに来たら、と言いたいところだけど・・・さすがにスカートを履いて窓から出るのはまずいよね」


二人で話しやすいように、彼女のすぐ隣の窓に寄りかかった。

隣のクラスから外を見ることがなかったので、僅かな違いといえど新鮮な気持ちがした。


「ここでも十分風が気持ち良いから平気」


何かを多く話すわけではない。



特別なことを話すわけではない。



だけど、彼女との静かな時間が好きだった。

大袈裟な言い方になるかもしれないが、無言でも分かり合える、そんな友達ができた高校三年間は本当に良かったと思える。