「それでも、もう卒業なんだね」


『卒業』という言葉を聞いて、それまでの話題から一気に現実に戻されたようだった。

彼女も自分で口にしながら、ばつが悪いような表情になっている。


「このままずっといられたらと思う気持ちと、このままではいけないという気持ち。ボクはどうしたらいいんだろうね」


再び顔を川のほうに向けたその表情が、どこか普段とは違う彼女のように見え、思わず見入ってしまう。


「ごめんね。今日だって真美沢さんと話していたのに、ボクに気を遣ってくれたんだろ?おかげで凄く気が楽になったよ。あっ!」


彼女が時計を見て驚くので、一緒になって覗き込むと・・・


「やべっ!バイト遅刻だ」


「キミ、今日が最後じゃなかったかい?」


「最後の最後に遅刻かよ」


二人同時に立ち上がり、バイト場へと走り出す。

彼女の表情は普段通りに戻っていて、笑顔で前を走っている。

卒業式に、彼女の心からの笑顔は見られるのだろうか・・・