車掌さんはその場に立ったまま、ゆっくりと首だけを回転させ始めたのだ。


そして、「残り30。残り30」と、呟く。


それはまるで不気味なオルゴールのよう。


「《残り30》って一体なんなんだよ!」


そう叫んだのは車掌さんの後ろにいた旺太だった。


旺太は青い顔をしながらも、ジッと車掌さんを睨み付けている。


すると次の瞬間、ギュルンッ! と音を出し、首を一回転させて旺太へと顔を向けた車掌さん。


その動きに旺太は一瞬たじろいたが、それでも目をそらさずにジッと睨み付けている。



「1人はイジメ。1人は助け。1人は虐待。1人は喧嘩。1人は事故。1人は病気」


マイクを通したように車内に響くその声で、車掌さんは繰り返す。


「1人はイジメ。1人は助け。1人は虐待。1人は喧嘩。1人は事故。1人は病気」


「な……なんなんだよ……」


さすがに旺太もひるんでいる。


しかし車掌さんはそのお経のような言葉をやめない。


「1人はイジメ。1人は助け。1人は虐待。1人は喧嘩。1人は事故。1人は病気。1人はイジメ。1人は助け。1人は虐待。1人は喧嘩。1人は事故。1人は病気。1人はイジメ。1人は助け。1人は虐待。1人は喧嘩。1人は事故。1人は病気」