「これが、今、この瞬間が、全部夢だってことはないよね?」


あたしはそう言いながらゆっくりと顔を上げた。


夢がいい。


夢であってほしい。


そんな願いを込めた言葉だった。


「目が覚めたらいつもの自分の部屋で、変な夢だったなぁって。ね? そう考えるのが一番まともだよ!」


あたしは明るい声でそう言った。


夢なら喉は乾かないし、トイレに行く必要もない。


どんな事が起きても『なんだ、夢か』と言えば消えてなくなるような事なんだから。


だけど、夢だと思い込むには窓の外の2人の死体があまりに生々しくて……あたしは顔から笑顔を消した。


「俺も、そう思ってるよ。こんなの、夢に決まってる」


少し悲しそうな顔で、旺太はそう言ったのだった。