俺は椅子に座り、頭を抱えていた。


みんなそれぞれなにか重要な事を思いだし、そして自分から窓の外へと出て行ってしまった。


でも、俺はいまだに何も思い出す事ができずにいる。


「旺太、大丈夫?」


穂香が隣に座り、俺の手を握りしめる。


「あぁ……」


俺は力なく頷く。


穂香も少しずつ自分の事を思いだしている。


おそらく、穂香がいなくなってしまうのも時間の問題だ。


こんな場所で1人残されるなんてことを考えるだけで、鳥肌が立つ。


できれば2人で脱出する方法を考えたい。


「なぁ穂香」


「なに?」


「お前は思い出さないでくれ……なんて、無理だよな?」


穂香は俺の言葉に目を見開き、そして寂しそうにほほ笑んだ。


「きっと、無理だと思う。みんなここで何かを思い出して、そしていなくなる。それがこの電車の行先なんだと思う」