あたしは窓に触れて、その向こうにいる朋樹をなでた。


その、瞬間。


真っ赤な血の中から不意に母親の顔が現れたのだ。


目は吊り上がり、真っ赤な口紅をしている母親があたしを睨んでいる。


体中の体温が奪われていくのを感じる。


「い……いやぁぁぁぁ!!」
あたしは悲鳴をあげ、その場にうずくまった。

目を閉じていたも母親の顔が浮かんできて、体はいやおうなしに震え始める。


「愛奈!!」


母親の怒鳴り声が耳元で聞こえてくる。


「この、出来損ないのクズが! どうしてお前はあたしのいう事がきけないんだ!?」


ここにいるはずのない母親が、あたしの頭を踏みつけてくる。

あたしの額は床にこすれて傷つき、ジワジワと血が滲んでくる。


あたしはこれを、毎日毎日やられていた。


中学を卒業してからは学校にも行かせてもらえず、働くことも許されず、暗く狭い部屋に閉じ込められていた。


その中で少しでも物音を立てようものなら、隣の部屋にいた母親が飛んできたんだ。


そして、あたしに罵声を浴びせかけた。