車内から投げ出された俺は、暗闇の中手足をばたつかせてもがいていた。


懸命に何かに掴まろうと手を伸ばす。


しかし、俺の手に触れるものはゴォゴォと耳元で鳴っている空気だけで、掴まれるようなものはなにもなかった。


声を上げたくても、風の抵抗をうけてまともに口も開かない。


一体自分はどうなってしまうんだろう?


そんな恐怖で体が震えた。


得体のしれない電車に乗り込んでしまったのが原因でこんな事になるなんて……。


俺は風だけを感じながら青い蝶の存在を思い出していた。


気が付けば追いかけていたあの蝶はどこへ姿を消したのだろう?


みんなも、あの蝶を追いかけてこの電車に乗り込んでしまったと言っていた。


グッと瞼に力を入れて、半分ほど目を開けてみた。


強い風の抵抗に紛れてなにかが見える。


あれは……俺?


暗闇の中に浮かぶようにして現れた病室の風景。


白いベッドの上には自分自身が横になっている。