「…蘇芳先生」

…お弁当箱を見ると、ここで一緒に食べた事を思い出す。

…視線を移せば、いつもの定位置で
蘇芳先生がタバコを吸っているのが見えた。

…そこにいるはずはないのに、そこにいるように見えるなんて、どれだけ蘇芳先生の事が好きなんだろうと、苦笑する。

…自分から、蘇芳先生の手を放したのに、これではダメだと思う。…三条先生からも逃げてないで、向かい合わなければいけない。

…三条先生は、私との結婚を望んでいる。それを受け入れなければいけない。

蘇芳先生の為に、雪愛が出来る事は、それくらいだから。

…お弁当を食べ終わると、片付けをして、診察室に戻った。

午後の診察が始まり、三条先生が順番に診察していく。とても物腰柔らかな三条先生は、患者から人気は高い。

診察も丁寧だ。それに、雪愛の看護師としてのサポートが入れば、更に患者が増える。

「…三条先生」
「どうしました、三浦さん?」

毎週来るお年寄りのおばあちゃんの三浦さんは、とても愛らしい人だ。

「…雪愛ちゃんと、いつ、結婚すんだい?」

突然の質問に、三条先生も、雪愛も、笑顔が消えた。

…でも、直ぐにいつものような笑顔を浮かべ、三条先生は三浦さんに言った。

「まだまだ先かなあ…でも、そのうちする予定ですから…ね?」

と、雪愛に振り返った三条先生は、雪愛に同意を求めた。