「…す、蘇芳先生、何を」

雪愛の言葉に何も答えない蘇芳先生は、黙ったまま、雪愛をギュッと抱きしめ、雪愛の首筋に自分の唇を押し当てた。

「…ッ!」

その瞬間、鈍い痛みが走り、雪愛は顔を歪めた。

そっと離れた唇は、今度は雪愛の耳元へ。

その行動に、雪愛の身体は震えた…

「…蘇芳、先生」
「…違う…秀明だ」

雪愛は泣きそうなのを必死に堪える。…その名を呼んでしまったら、もう蘇芳先生から離れられないと思った。…だから、呼べなかった。

「…泣くな…雪愛の笑顔が見たい」

蘇芳先生の言葉に首を振る雪愛。蘇芳先生は、困ったように笑って。

「…俺は、雪愛を諦めるつもりはない。ただ、しばらく俺に時間をくれ…必ず迎えに行く…三条なんかのモノになるな」

「…蘇芳先生、私は貴方と別れたの。もう、私の事は…忘れてください」

しゃくりあげながら、なんとか口にした雪愛。…蘇芳先生の腕の中からスルリと抜け出し、逃げるようにその場を去った。

…それから約ひと月後、蘇芳先生は、病院を突然辞めてしまった。

なんの前触れもなく、蘇芳先生は消えてしまった。